HALSハイブリッド塗料とラジカル制御形塗料の歴史を徹底解説
外壁塗装の塗料を調べていると、「ラジカル制御形塗料」「HALS配合」「高耐候性酸化チタン」「ハイブリッド樹脂」といった、少し難しそうな言葉を見かけることがあります。
どの言葉も、塗膜を紫外線から守り、できるだけ長持ちさせるための技術に関係しています。
しかし、実際にはHALSハイブリッド塗料とラジカル制御形塗料は、まったく別々の塗料ではありません。
長い研究開発の歴史のなかで、互いに重なり合いながら発展してきた耐候技術です。
さらに、「ラジカル制御形塗料なら、どの商品も同じくらい長持ちする」「シリコン塗料より高級」「フッ素塗料と同じ性能」といった説明を見かけることもありますが、これは少し話を簡単にしすぎています。
ただし塗料の耐久性は、HALSの有無だけでは決まりません。
樹脂、酸化チタン、紫外線吸収剤、顔料、架橋構造、塗膜の厚み、下塗り、施工環境など、いくつもの要素が重なって決まります。
たとえるなら、塗膜は一人の優秀な選手だけで守るものではなく、守備位置の異なる選手が力を合わせるチームのようなものです。
このコラムでは、「HALSがどのように誕生し、なぜ建築塗料に採用されるようになったのか?」
そして、2012年以降に日本の住宅塗装市場でラジカル制御形塗料が広く普及した背景まで、歴史をたどりながら分かりやすく解説します。
塗料の名前だけで判断するのではなく、住まいに合った塗料を総合的に見極めるための知識として、ゆっくり読み進めていただければと思います。
- ■ HALSとラジカル制御技術の基本的な仕組み
- ■ HALSが研究・実用化されてきた歴史
- ■ HALSハイブリッド塗料が登場した背景
- ■ 2012年以降にラジカル制御形塗料が普及した理由
- ■ HALSハイブリッド塗料とラジカル制御形塗料の違い
- ■ ラジカル制御形塗料のメリットとデメリット
- ■ 塗料選びで確認したい重要なポイント
- ■ これからの高耐候性塗料が向かう方向
1. HALSハイブリッド塗料とラジカル制御形塗料の結論
結論からお伝えすると、HALSハイブリッド塗料は、現在のラジカル制御形塗料へつながる重要な先行技術の一つですが、二つの言葉が示す範囲は完全には同じではありません。
HALSハイブリッド塗料は、一般にHALSと呼ばれる光安定剤を、樹脂、耐水性モノマー、紫外線吸収剤などと組み合わせた塗料を指します。
一方、ラジカル制御形塗料は、塗膜劣化の原因となるラジカルについて、次のような複数の方法で発生や活動を抑える塗料の総称として使われています。
- ■ ラジカルを発生しにくくする
- ■ 発生したラジカルを封じ込める
- ■ HALSでラジカル連鎖反応を抑える
- ■ 紫外線吸収剤で塗膜内部へ届く紫外線を減らす
- ■ 強く緻密な樹脂で水・酸素の浸入を抑える
つまり、HALSはラジカルの制御を行うための先端技術ですが、ラジカル制御形塗料のすべてを表す言葉ではありません。
また、ラジカル制御は、アクリル、シリコン、フッ素、無機といった樹脂のグレード名ではなく、塗膜の劣化を抑える機能設計です。
この違いを理解しておくと、「ラジカルだからシリコンより上」「無機だからHALSは必要ない」といった単純な比較に惑わされなくなります。
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2. ラジカルとは何か|塗膜が劣化する基本的な仕組み
ラジカルとは、化学的には不対電子を持つ、反応性の高い原子や分子のことをいいます。
住宅の外壁に塗られた塗膜は、毎日、紫外線、酸素、雨水、熱、冷却、結露、大気中の汚染物質などにさらされています。
こうした負荷が重なると、塗膜を構成する樹脂の結合が切れたり、過酸化物が生じたりして、反応性の高いラジカルが発生します。
一度発生したラジカルは、周囲の分子から電子や水素を奪い、別のラジカルを作り、この反応が次々に広がるものをラジカル連鎖反応といいます。
外壁塗料には、白さ、明るさ、隠ぺい力を与えるために酸化チタンが広く使われています。
酸化チタンは、塗料にとって欠かすことのできない優れた白色顔料です。
白色だけでなく、ベージュ、グレー、クリーム、淡いブルーなど、多くの色にも配合されています。
一方、酸化チタンには、紫外線、水、酸素などの影響によって活性種を発生させ、周囲の有機物を分解する性質があり、塗料用の酸化チタンは、結晶形や表面処理を工夫し、光触媒活性をできるだけ低く抑えたものが使われます。
それでも、長期間にわたり屋外へさらされる塗膜では、完全に劣化反応をなくすことはできません。
樹脂の結合が少しずつ壊れると、塗膜表面に顔料が残り、手で触れたときに白い粉が付着するようになります。
これが、外壁塗装でよく耳にするチョーキング現象です。
チョーキングは、単に表面が汚れているのではありません。
紫外線や熱などによって樹脂が劣化して、顔料をしっかり抱え込めなくなっているサインです。
ラジカル制御技術は、この紫外線や熱劣化の連鎖をできるだけ早い段階で抑え、光沢低下、変色、退色、ひび割れ、チョーキングの進行を遅らせるために発展してきました。
3. HALS誕生以前|紫外線劣化との長い戦い
HALSが登場する以前から、塗料、ゴム、プラスチックなどの高分子材料を紫外線から守る研究は行われていました。
合成樹脂が屋外製品へ広く使われるようになると、日光によって色が変わる、表面がもろくなる、ひび割れる、強度が低下するといった問題が目立つようになります。
そこで、初期の光安定化技術では、主に次のような方法が研究されました。
- ■ 紫外線を吸収して熱などへ変える紫外線吸収剤
- ■ 酸化反応を抑える酸化防止剤
- ■ 励起状態のエネルギーを受け取る消光剤
- ■ 光を遮る顔料や充填材
紫外線吸収剤は、塗膜の前に日傘を差すような役割を持っています。
ただし、紫外線吸収剤だけでは、塗膜表面で起こる酸化反応や、すでに発生したラジカルの連鎖を十分に抑えきれないことがあります。
また、低分子型の添加剤では、長い年月のなかで塗膜表面へ移動したり、塗膜外へ抜け出したりするブリードアウトや移行が課題になる場合もありました。
このような課題に対して、紫外線を受けた後に起こる酸化反応そのものへ働きかける新しい安定剤として注目されたのが、HALSです。
4. 1960年代から1970年代|HALSの発見と実用化
HALSは、Hindered Amine Light Stabilizerの略称です。
日本語では、ヒンダードアミン系光安定剤と呼ばれます。
HALSにつながる化合物の研究は1960年代に進み、1970年代初頭には高分子材料を守る光安定剤として商業利用が始まったとされています。
当初は、ポリプロピレンやポリエチレンなど、屋外で劣化しやすいプラスチックの耐候性を高める技術として発展しました。
HALSは、紫外線吸収剤のように紫外線を大量に吸収して守る成分ではありません。
主な役割は、光酸化反応のなかで生じるラジカルを捕捉し、樹脂を壊す連鎖反応を抑えることで、日常的なたとえに置き換えると、紫外線吸収剤が「日差しを遮る日傘」だとすれば、HALSは「火の粉が広がる前に消して回る消防隊」に近い存在です。
HALSは、反応の過程でニトロキシルラジカルなどの活性種へ変わり、樹脂を劣化させるラジカルと反応し、さらに反応後に再び働ける形へ戻る循環機構を持つため、少量でも長期的に作用できる点が大きな特長です。
この循環的な安定化機構は、一般にデニソフサイクルと呼ばれています。
ただし、実際の反応機構は一つの単純な経路だけではありません。
樹脂の種類、酸素濃度、温度、顔料、酸や塩基、他の添加剤などによって、複数の反応経路が関係すると考えられています。
HALSの登場は、高分子材料の寿命を延ばす技術に大きな転機をもたらし、プラスチック、自動車部品、フィルム、接着剤、シーリング材、塗料へと用途が広がっていきました。
5. 1980年代から1990年代|HALS技術の高度化
初期のHALSには、耐候性を向上させる効果がある一方で、塗膜や樹脂から移動しやすい、酸性物質の影響を受ける、他の添加剤との相性によって性能が変わってしまうといった課題もありました。
そこで1980年代から1990年代にかけて、HALSは次のような方向へ進化します。
| HALSの進化 | 主な目的 |
|---|---|
| 高分子量化 | 塗膜や樹脂から移動しにくくし、長期間とどまりやすくする |
| オリゴマー化 | 耐移行性と樹脂への相溶性を両立する |
| 反応型HALS | HALSを樹脂骨格へ化学的に結合し、ブリードアウトを抑える |
| 低塩基性・NOR型 | 酸性成分や特定の難燃剤などとの相互作用を抑える |
| UVAとの併用 | 紫外線の侵入抑制とラジカル捕捉を組み合わせる |
一般的な添加型HALSは、塗料へ混ぜることで機能を付与できます。
しかし、長期間屋外へさらされる塗膜では、HALSが塗膜内を移動し、表面へ偏ったり、徐々に抜け出したりする可能性があり、そこで研究されたのが、重合可能な官能基を持つ反応型HALSで、反応型HALSをアクリル樹脂などの高分子鎖へ組み込むと、HALSが樹脂の一部として固定されやすくなります。
1990年代から2000年代初頭には、反応型HALSと疎水性モノマー、シラン化合物、紫外線吸収性基などを共重合する技術について、多くの特許や研究が積み重ねられました。
この技術は、単に「添加剤を足す」という発想から、耐候機能を樹脂そのものへ設計するという発想への変化でもありました。
現在使われている「ハイブリッド」という言葉の背景には、こうした分子設計と複合化技術の歴史があります。
6. 1990年代から2000年代|建築塗料への展開
1990年代以降、建築塗料には、耐候性だけでなく、環境負荷、臭気、安全性、作業性への対応も求められるようになりました。
特に集合住宅や戸建て住宅の塗り替えでは、居住者が生活しているすぐそばで塗装作業を行います。
そのため、強溶剤形塗料から弱溶剤形塗料、水性塗料へ移行する流れが進みました。
しかし、水性塗料で高い耐候性を実現するには、いくつもの課題があります。
- ■ 水のなかで樹脂と添加剤を均一に分散させること
- ■ HALSや紫外線吸収剤の移行・析出を抑えること
- ■ 低温や高湿度でも安定した塗膜を形成すること
- ■ 耐水性と透湿性のバランスを取ること
- ■ ローラーで塗りやすく、飛散やだれを抑えること
高耐候性は、研究室の試験機のなかだけで成立すれば良いわけではありません。
現場で塗りやすく、所定の膜厚を確保でき、外壁の動きへ追従し、雨や結露にも耐えられること。
この性能と施工性の両立が、建築塗料では欠かせません。
HALS技術は、アクリルエマルション、シリコン変性樹脂、疎水性モノマー、紫外線吸収剤などと組み合わせられ、住宅外壁向けの高耐候性水性塗料へ採用されるようになっていきました。
7. 日本で登場したHALSハイブリッド塗料
日本の建築塗料市場では、「ラジカル制御形塗料」という呼び方が広く普及する前から、HALSを採用した高耐候性塗料がありました。
その代表的な先行例として知られているのが、トウペの「ハイウェザーDC」です。
同製品の公式資料では、HALSとCHMAを組み合わせたハルスハイブリッド樹脂が説明されています。
CHMAは、一般にシクロヘキシルメタクリレートと呼ばれる疎水性の高いアクリル系モノマーです。
ハイウェザーDCでは、紫外線による樹脂劣化を抑えるHALSと、雨水や水分の影響を抑えるCHMAを樹脂骨格へ組み込み、耐候性と耐水性を高める考え方が採用されています。
ここで使われる「ハイブリッド」は、HALSだけを意味するのではなく、紫外線に対する防御と水分に対する防御を一つの樹脂設計へ組み合わせていることが重要です。
公式資料では、アクリルシリコン樹脂を上回り、フッ素樹脂塗料に迫る耐候性を目指した製品として説明されています。
ただし、(注意)「フッ素に迫る」という表現だけで、すべてのフッ素塗料と同等と判断することはできません。
フッ素樹脂にもさまざまな種類があり、樹脂含有量、架橋構造、顔料、下塗り、膜厚、試験条件によって性能が異なるからです。
HALSハイブリッド塗料という言葉は、JISで統一された一つの樹脂分類ではありません。
メーカーや製品によって、次のように意味が異なる場合があります。
- ■ HALSと耐水性モノマーを組み合わせたもの
- ■ HALSと紫外線吸収剤を組み合わせたもの
- ■ 反応型HALSを樹脂骨格へ固定したもの
- ■ HALSとシリコン樹脂を複合化したもの
- ■ HALSと無機・有機ハイブリッド樹脂を組み合わせたもの
日本触媒の「ハルスハイブリッドUV-G」のように、紫外線吸収性基とHALS機能をアクリル樹脂骨格へ化学的に組み込んだ材料もあります。
したがって、HALSハイブリッドという名前だけで性能を比較するのではなく、何と何を組み合わせ、どのような方法で塗膜内へ保持しているのかを見ることが大切です。
8. 2012年|ラジカル制御形塗料が広く知られる転機となりました
日本の住宅塗装市場で「ラジカル制御形塗料」という言葉が広く知られる大きな転機は、2012年でした。
日本ペイントは2012年9月25日、住宅外壁向けの水性上塗り塗料「ニッペ パーフェクトトップ」の販売を開始しました。
同年10月5日の公式発表では、独自の樹脂技術によって、従来品より紫外線に対する耐候性を向上させるとともに、ローラー作業性や塗着感を高めた製品として紹介されています。
HALSや高耐候性酸化チタンに関係する技術は、2012年以前から存在していました。
それでもパーフェクトトップが大きな転機となった理由は、塗膜劣化の仕組みを「ラジカルの発生を抑える」「ラジカルを封じ込める」という分かりやすい言葉で伝えたことにあります。
それまでの塗料選びは、アクリル、ウレタン、シリコン、フッ素といった樹脂名で比較することが中心でした。
そこへ、樹脂の名前だけでなく、塗膜を劣化させる原因へ目を向ける「ラジカル制御」という新しい選択軸が加わりました。
これは塗料の性能設計だけでなく、塗料の説明方法にも変化をもたらしたといえます。
パーフェクトトップの普及には、耐候性だけでなく、住宅塗装の現場で扱いやすかったことも関係しています。
どれほど高性能な塗料でも、ローラーから飛散しやすい、隠ぺい性が悪い、塗り継ぎが目立つ、必要な膜厚を付けにくい製品では、現場で安定した品質を作りにくくなるので、パーフェクトトップは、ポリマーハイブリッド効果による塗りやすさ、隠ぺい性、転写性、高光沢などを特長として展開されました。
2014年には、弱溶剤形の「ファインパーフェクトトップ」も加わり、外壁だけでなく鉄部や付帯部を含む塗り替えにも提案しやすくなり、日本ペイントは2022年に発売10周年を発表し、パーフェクトトップをラジカル制御形ハイブリッド高耐候性塗料のパイオニアと位置づけています。
HALSを含む耐候技術の長い研究史が、2012年を境に「ラジカル制御形塗料」という分かりやすい市場カテゴリーへ結び付いたのです。
9. 2015年以降|各メーカーへ広がったラジカル制御技術
パーフェクトトップの登場以降、ラジカル制御という考え方は住宅塗装市場へ急速に広がりました。
2014年12月には、エスケー化研が「エスケープレミアムシリコン」の販売を開始しています。
エスケープレミアムシリコンでは、無機酸化物の表面を保護するダブルシールドと、発生したラジカルを捕捉するラジカルキャッチャー、特殊ハイブリッドシリコン樹脂を組み合わせた技術が説明されています。
その後、2015年2月 関西ペイント「アレスダイナミックTOP」2015年6月 ロックペイント「ハイパービルロックセラ」をはじめ、さまざまなメーカーが、独自の名称と構成でラジカル制御技術を採用するようになりました。
| 時期 | 主な動き | 技術的な意味 |
|---|---|---|
| 2012年 | パーフェクトトップ発売 | ラジカル制御形塗料という市場カテゴリーが広く認知される転機 |
| 2014年 | 弱溶剤形製品などへ展開 | 外壁から鉄部・付帯部まで用途が拡大 |
| 2015年 | エスケープレミアムシリコン販売開始 | シリコン樹脂とラジカルコントロール技術の組み合わせが普及 |
| 2010年代後半 | 各社から関連製品が登場 | 水性・弱溶剤、外壁・屋根、シリコン・フッ素などへ多様化 |
| 2020年代 | 無機系・超低汚染・つや消し塗料へ展開 | 耐候性だけでなく、意匠性、低汚染性、施工性を含む複合技術へ進化 |
現在のラジカル制御形塗料は、HALSを一種類配合しただけの単純なものではありません。
高耐候性酸化チタン、HALS、紫外線吸収剤、シリコン樹脂、フッ素樹脂、無機成分、特殊架橋技術などを重ね合わせた製品が増えています。
スズカファインの近年の製品資料では、高密度シェル構造の酸化チタン、HALS、紫外線吸収剤、緻密な架橋塗膜を組み合わせたラジカル制御技術が説明されています。
ラジカル制御技術は、一つの成分で守る時代から、発生抑制・捕捉・紫外線遮断・水分遮断を重ねた多層防御の時代へ進んでいます。
10. HALSハイブリッド塗料とラジカル制御形塗料の違い
HALSハイブリッド塗料とラジカル制御形塗料は近い関係にありますが、視点が少し異なります。
| 比較項目 | HALSハイブリッド塗料 | ラジカル制御形塗料 |
|---|---|---|
| 中心となる考え方 | HALSを樹脂や他の耐候技術と組み合わせる | 塗膜を劣化させるラジカルの発生と活動を総合的に抑える |
| 主な技術 | HALS、反応型HALS、CHMA、UVAなど | 高耐候性酸化チタン、HALS、UVA、高耐候樹脂、緻密な架橋構造など |
| 名称の位置づけ | 製品・メーカー独自の呼称として使われることが多い | 耐候技術を示す市場カテゴリーとして広く使われている |
| 樹脂の種類 | アクリル系やシリコン系など製品によって異なる | アクリル、シリコン、フッ素、無機系など幅広い |
| 注意点 | ハイブリッドの意味が製品ごとに異なる | ラジカル制御という名称だけでは性能差を判断できない |
簡単に整理すると、HALSハイブリッド塗料は「何を組み合わせたか」に重点を置く言葉です。
ラジカル制御形塗料は「塗膜劣化をどのように抑えるか」に重点を置く言葉と考えると、違いが分かりやすくなります。
ただし、現在では両方の言葉を組み合わせ、「HALSハイブリッドラジカル制御」と表現する製品もあるため、境界線は明確ではありません。
11. ラジカル制御を支える主な技術
現在のラジカル制御形塗料は、複数の技術を組み合わせて作られています。
酸化チタン粒子の表面を、シリカ、アルミナ、ジルコニアなどの無機物で処理し、光触媒的な反応を抑える考え方です。
メーカーによっては、酸化チタンを高密度のシェルで包み、ラジカルを外へ出にくくする技術として説明しています。
ただし、表面処理の方法、被覆の厚み、酸化チタンの銘柄などは製品ごとに異なります。
発生したラジカルを捕捉し、樹脂を壊す連鎖反応を抑えます。
HALSにも低分子型、高分子型、オリゴマー型、反応型などがあり、耐移行性、相溶性、酸への強さが異なります。
紫外線を吸収し、そのエネルギーを熱などへ変換して放出します。
HALSが発生後の連鎖反応を抑えるのに対し、UVAは紫外線が塗膜内部へ届く量を減らす役割を持ちます。
両者は守る位置と方法が異なるため、適切に組み合わせることで相乗効果が期待できます。
塗膜の骨格となる樹脂そのものが弱ければ、HALSやUVAだけで長期耐久性を支えることはできません。
シリコン結合、フッ素結合、無機シロキサン結合など、紫外線エネルギーで切れにくい構造を採用することで、塗膜全体の耐候性を高めます。
水、酸素、汚染物質が塗膜内部へ入りにくい緻密な構造を作ることも、ラジカル発生を抑えるために重要です。
二液反応硬化、一液反応硬化、無機・有機ハイブリッド、特殊架橋技術など、製品ごとに異なる方法が採用されています。
高耐候性塗料は、優れた材料を一つ加えれば完成するものではありません。
顔料・添加剤・樹脂・架橋・施工性を一つの塗膜として整える総合設計です。
12. ラジカル制御形塗料のメリット
ラジカル制御形塗料の大きな魅力は、樹脂を壊す原因へ複数の方法で働きかけられることです。
樹脂の分解が抑えられることで、塗膜表面に顔料が露出するチョーキングや、光沢の低下を遅らせる効果が期待できます。
外壁の色と艶が長く保たれれば、住まい全体の清潔感も維持しやすくなります。
ラジカル制御技術は、水性シリコン系を中心に幅広い価格帯へ普及しています。
フッ素塗料や高価格帯の無機塗料までは必要ないものの、一般的なシリコン塗料より耐候性を重視したい場合に、選択肢となりやすい塗料です。
住宅外壁向けでは、水性1液形の製品が多く、強溶剤形塗料と比べて臭気を抑えやすい傾向があります。
住宅密集地、集合住宅、臭いに敏感な方が暮らす住まいでは、周囲への配慮という面でもメリットがあります。
現在では、外壁用、屋根用、付帯部用、水性、弱溶剤、つや有り、つや消し、シリコン系、フッ素系、無機系など、多くの製品が展開されています。
建物の状態、仕上がりの好み、予算に応じて選びやすくなったことも、ラジカル制御形塗料が定着した理由の一つです。
13. ラジカル制御形塗料のデメリットと注意点
ラジカル制御形塗料は優れた技術ですが、名前だけで万能な塗料だと考えるのは危険です。
「ラジカル制御形」と表示されていても、酸化チタンの種類、HALSの種類、配合量、樹脂の品質、紫外線吸収剤の有無などは製品によって異なります。
ラジカル制御という言葉は同じでも、塗膜性能まで同じとは限りません。
HALSは非常に有効な安定剤ですが、樹脂との相溶性が悪ければ、均一に働きにくくなります。
低分子型では移行やブリードアウトが問題になる場合があり、酸性成分や他の添加剤との相互作用によって性能が低下することもあります。
だからこそ、HALSは配合されているかどうかだけでなく、塗料全体のなかで適切に設計されているかが重要です。
酸化チタンを多く含む白色や淡彩色では、酸化チタン由来のラジカル制御が重要になります。
一方、黒、濃紺、濃茶などでは酸化チタンの配合量が少なく、有機顔料の退色、表面温度の上昇、樹脂の熱劣化などの影響が大きくなります。
濃色でもラジカル制御技術は有効ですが、白色とまったく同じ仕組みで耐候性が決まるわけではありません。
キセノンランプ、サンシャインウェザーメーターなどによる促進耐候性試験は、塗料を比較するうえで重要な試験です。
ただし、試験機で2,500時間や3,000時間光沢を保持したからといって、実際の住宅で一律に何年間持つと換算できるわけではありません。
実際の外壁では、南面と北面、海沿いと内陸、日当たり、結露、藻、排気ガス、雨筋、下地の吸水など、条件が大きく異なります。
高性能塗料であっても、洗浄不足、下地補修不足、下塗りの選定ミス、過度な希釈、塗布量不足、乾燥時間不足があれば、本来の耐久性は得られません。
塗料は、缶のなかに入っている段階では半製品です。
下地へ適切な厚みで塗られ、十分に乾燥・硬化して、初めて住まいを守る塗膜になります。
高性能塗料を選ぶことと、高品質な施工店を選ぶことは、必ず一組で考える必要があります。
14. 失敗しないラジカル制御形塗料の選び方
ラジカル制御形塗料を選ぶときは、商品名や広告のキャッチコピーだけでなく、次の項目を確認することが大切です。
| 確認する項目 | 確認したい内容 |
|---|---|
| 樹脂の種類 | アクリル系、シリコン系、フッ素系、無機・有機ハイブリッド系など |
| ラジカル制御技術 | 高耐候性酸化チタン、HALS、UVA、特殊架橋など、何を採用しているか |
| 試験方法 | キセノンランプ法、サンシャインウェザーメーター、屋外暴露など |
| 適用下地 | サイディング、モルタル、ALC、旧塗膜、鉄部などへ適合するか |
| 下塗り材 | 吸い込み、旧塗膜、難付着面、光触媒面などへ対応できるか |
| 標準塗布量 | 必要な塗膜厚を確保する仕様になっているか |
| 色と艶 | 濃色、原色、つや消しでも十分な耐候性が期待できるか |
| 施工管理 | 希釈率、乾燥時間、気温、湿度、塗り回数を守れるか |
外壁塗装では、上塗り塗料だけが長持ちしても、シーリングが先に割れたり、下塗りが剥がれたりすれば、塗り替え全体の寿命は短くなります。
窯業系サイディングであれば、シーリングの種類と施工方法。
モルタルであれば、ひび割れ、浮き、吸水状態。
ALCであれば、目地、防水性、下地の含水状態。
建物ごとに弱点が違うため、上塗り塗料だけで判断してはいけません。
小林塗装では、塗料の商品名だけを先に決めるのではなく、まず外壁や屋根の状態を確認します。
旧塗膜の種類、チョーキング、ひび割れ、反り、吸い込み、シーリング、雨仕舞い、日当たり、周辺環境を調査したうえで、下塗りから上塗りまでの組み合わせを考えます。
また、色の濃さや艶によっても、熱の受け方、退色の見え方、汚れの目立ち方は変わります。
塗料の耐候性だけでなく、住まいのデザインと将来のメンテナンスまで含めて選ぶことが、後悔の少ない外壁塗装につながります。
15. 2026年以降のHALS・ラジカル制御技術
HALSとラジカル制御技術は、すでに完成した過去の技術ではありません。
現在も、塗膜をより長く、美しく、安全に保つための研究が続いています。
今後は、HALSを単に添加するのではなく、樹脂骨格へ固定したり、高分子量化したりする技術がさらに重要になると考えられます。
HALSや紫外線吸収剤が塗膜から抜けにくくなれば、耐候効果を長期間維持しやすくなります。
ラジカルを一つの方法だけで抑えるのではなく、発生前、発生時、発生後の各段階で制御する設計が進んでいます。
- ■ 高耐候性酸化チタンで発生を抑える
- ■ 紫外線吸収剤で紫外線を減らす
- ■ HALSで連鎖反応を止める
- ■ 緻密な樹脂で水と酸素の侵入を抑える
無機成分の強い結合と、有機樹脂の柔軟性を組み合わせた無機・有機ハイブリッド塗料にも、HALSやラジカル制御技術が採用されています。
無機成分だけでは、ひび割れや下地の動きへの追従性が課題になることがあります。
反対に、有機樹脂だけでは紫外線による劣化を受けやすくなります。
双方の長所を生かしながら、HALS、UVA、低汚染技術を組み合わせることが、現在の高耐候性塗料の大きな流れです。
近年は、強い光沢だけでなく、落ち着いた3分艶、つや消し、マットな外壁を希望される方が増えています。
つや消し塗料は、表面が微細に凹凸化するため、汚れ、擦れ、耐候性の設計が難しくなる場合があります。
これからは、ラジカル制御技術を活用しながら、上品な質感、低汚染性、可とう性を両立する製品が増えていくと考えられます。
塗膜が長持ちすれば、塗り替え回数を減らし、塗料、容器、足場、運搬、廃材、施工エネルギーの削減につながります。
ただし、高耐久化のために複雑な添加剤を増やせば良いというものでもありません。
性能、安全性、資源循環、環境中での挙動まで含めた設計が、今後さらに求められるでしょう。
これからの高耐候性塗料は、単に長持ちするだけでなく、施工する人、暮らす人、周辺環境まで含めて無理の少ない塗料へ進化していくことが期待されます。
16. HALSとラジカル制御形塗料の歴史年表
HALSから現在のラジカル制御形塗料までの流れを、簡単な年表にまとめます。
| 年代 | 主な出来事 | 塗料技術への影響 |
|---|---|---|
| 1950年代以前 | 高分子材料の光酸化・紫外線劣化が課題になる | 紫外線吸収剤、酸化防止剤、消光剤の研究が進む |
| 1960年代 | ヒンダードアミン系化合物の光安定効果が研究される | HALS技術の基礎が形成される |
| 1970年代 | HALSが商業利用される | プラスチックを中心に高い光安定効果が評価される |
| 1980年代 | HALSの作用機構やUVAとの相乗効果が研究される | 複数の光安定剤を組み合わせる考え方が進む |
| 1990年代 | 高分子量型・オリゴマー型・反応型HALSが発展 | 移行やブリードアウトを抑える技術が進む |
| 2000年代 | 水性樹脂、疎水性モノマー、反応型HALSの複合化が進む | 住宅外壁向けHALSハイブリッド塗料へ展開 |
| 2012年 | 日本ペイントがパーフェクトトップを発売 | ラジカル制御形塗料が住宅塗装市場で広く認知される |
| 2015年 | エスケープレミアムシリコン販売開始 | ラジカル制御形シリコン塗料が広く普及 |
| 2010年代後半 | 各メーカーが外壁・屋根用製品を展開 | 水性、弱溶剤、シリコン、フッ素などへ多様化 |
| 2020年代 | 無機・有機ハイブリッド、低汚染、つや消し技術と融合 | 複数の劣化要因を抑える総合的な耐候設計へ進化 |
現在のラジカル制御形塗料は、2012年に突然生まれたものではありません。
半世紀以上にわたる高分子安定化技術の積み重ねが、住宅塗装へ届いた結果といえます。
17. まとめ|HALSとラジカル制御技術は塗膜を長持ちさせる知恵の積み重ねです

HALSは、1960年代から1970年代にかけて研究・実用化が進み、樹脂を劣化させるラジカル連鎖反応を抑える光安定剤として発展してきました。
その後、高分子量化、反応型HALS、紫外線吸収剤との併用、耐水性モノマーとの複合化などが進み、建築塗料にも採用されるようになります。
日本では、ラジカル制御形塗料という言葉が広く知られる前から、HALSとCHMAを組み合わせたハルスハイブリッド塗料などが存在していました。
そして2012年、日本ペイントのパーフェクトトップが登場したことで、「ラジカルの発生や活動を抑えて塗膜を長持ちさせる」という考え方が、住宅塗装市場へ広く浸透します。
2015年以降は、各塗料メーカーが独自のラジカル制御技術を展開し、現在ではシリコン、フッ素、無機・有機ハイブリッド、つや消し塗料など、幅広い製品へ採用されています。
ただし、ラジカル制御という名称だけで、塗料の耐久性が決まるわけではありません。
酸化チタンの表面処理、HALSの種類、紫外線吸収剤、樹脂、架橋構造、色、艶、膜厚、下塗り、施工品質などを総合的に見ることが大切です。
外壁塗装は、塗料のカタログだけでは完成しません。
建物を丁寧に調べ、下地を整え、適切な下塗りを選び、定められた塗布量と乾燥時間を守ること。
その積み重ねが、塗料の技術を本当の耐久性へ変えていきます。
小林塗装では、塗料の流行や商品名だけに頼らず、住まいの状態、周辺環境、仕上がりの好み、将来のメンテナンスまで考えた塗装仕様をご提案しています。
18. HALS・ラジカル制御形塗料についてのQ&A

HALSは、ヒンダードアミン系光安定剤の略称です。
紫外線や酸素の影響によって塗膜内に発生するラジカル連鎖反応を抑え、樹脂の劣化、チョーキング、光沢低下、ひび割れなどを遅らせるために使われます。
HALSは、紫外線そのものを主に吸収する成分ではありません。
紫外線を吸収する役割は主にUVAと呼ばれる紫外線吸収剤が担い、HALSは紫外線などによって生じたラジカル反応を抑えます。
完全に同じ意味ではありません。
HALSハイブリッド塗料はHALSと樹脂、耐水性モノマー、UVAなどを組み合わせた塗料を指すことが多く、ラジカル制御形塗料は、ラジカルの発生と活動を複数の方法で抑える塗料を幅広く表します。
HALSや紫外線吸収剤を使った耐候技術は、2012年より前から存在しています。
日本の住宅塗装市場でラジカル制御形塗料という分類が広く知られる転機となったのは、2012年にパーフェクトトップが発売された頃です。
すべてがシリコン塗料というわけではありません。
ラジカル制御は樹脂の種類ではなく、耐候性を高める機能です。
アクリル系、シリコン系、フッ素系、無機・有機ハイブリッド系などに採用されています。
耐用年数は、製品、樹脂、色、方角、日当たり、下地状態、塗膜厚、施工品質によって変わります。
ラジカル制御という名称だけで年数を決めず、製品ごとの耐候試験、施工仕様、建物の条件を確認することが大切です。
濃い色にも効果は期待できます。
ただし、濃色では酸化チタンの配合量が少ないため、有機顔料の退色、熱の吸収、表面温度の上昇など、淡色とは異なる要因も考える必要があります。
チョーキングを遅らせる効果は期待できますが、永久に起こらないわけではありません。
すべての有機塗膜は、紫外線、酸素、水、熱などの影響を受けます。
ラジカル制御は、劣化をなくす技術ではなく、進行を抑える技術です。
試験時間を実際の耐用年数へ単純換算することはできません。
促進耐候性試験は製品比較に役立ちますが、実際の住宅では方角、温度、雨、結露、塩害、汚染などの条件が異なります。
下地処理を省略することはできません。
高圧洗浄、ケレン、ひび割れ補修、シーリング、下塗り、塗布量、乾燥時間が適切でなければ、高性能塗料でも早期剥離や膨れを起こす可能性があります。
一概に優れているとはいえません。
ラジカル制御技術は非常に重要ですが、塗膜全体の性能は樹脂、顔料、添加剤、架橋構造、施工条件によって決まります。
性能と費用のバランスを考え、建物に合う塗料を選ぶことが大切です。
メーカー名と商品名だけでなく、下塗り材、塗り回数、塗布量、施工面積、希釈方法、対象部位まで確認してください。
「ラジカル塗料一式」としか記載されていない見積書では、実際にどの商品を、どの仕様で施工するのか判断できません。
フッ素樹脂塗料はどう進化した?歴史・種類・耐久性・今後を塗装店が解説
どうしてシリコン塗料は外壁塗装の定番になったの?歴史・性能・選び方をプロが解説
筆者情報
主な参考資料
- ■ BASF「Hindered Amine Light Stabilizers」「TINUVIN Light Stabilizers」
- ■ American Chemical Society「How do Hindered Amine Light Stabilizers Protect Polymer Coatings from Photo-oxidative Degradation?」
- ■ 日本触媒「ハルスハイブリッドUV-G」製品情報
- ■ 株式会社トウペ「ハイウェザーDC」公式製品資料
- ■ 日本ペイント株式会社「ニッペ パーフェクトトップ」発売資料・製品情報
- ■ エスケー化研株式会社「エスケープレミアムシリコン」製品情報
- ■ スズカファイン株式会社「ラジカル制御形塗料」製品資料
- ■ 高分子材料の光劣化・HALS作用機構に関する学術論文および特許資料
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