昔の外壁塗装と今の外壁塗装はどう違う?|塗料・住宅・職人技を深掘り
「昔の塗装は、今より長持ちしたよな」「いやいや、今の塗料は昔とは比べものにならないくらい良くなっていますよ」。
塗装職人が何人か集まって仕事の話をしていると、ときどき、こんな話になります。
話し始めは穏やかなのですが、経験年数が違う職人が集まると、だんだん熱が入ってくる。
職人の間ではよくある光景です。
実際のところ、どちらの意見もまったくの間違いではありません。
ただ、「昔の方が良かった」「今の方が優れている」と二つに分けてしまうと、外壁塗装がこの数十年でどう変わってきたのかを、少し単純に見過ぎてしまいます。
なぜなら、変わったのは塗料だけではないからです。
住宅の外壁材、下地、シーリング材、刷毛やローラー、養生材、電動工具、安全基準、メーカーの施工仕様、色の決め方、そしてお客様が工事に求めるものまで、外壁塗装を取り巻く環境そのものが大きく変わっています。
昔はモルタル、木、鉄などを相手にしながら、職人が現場を見て、触って、削って、「この家はこう納めよう」と考える比重が今以上に大きい時代でした。
一方、現在は窯業系サイディング、ALC、金属外装材など多様な下地へ、数多くの下塗り材や高機能塗料を組み合わせ、メーカー仕様、安全性、周辺環境まで考えながら施工します。
つまり、昔の外壁塗装から現在の外壁塗装への変化は、「塗料が良くなった」という一言では、とても説明しきれません。
ただ塗るだけの仕事から、診断し、材料を選び、下地を直し、必要な塗膜をつくり、安全を管理し、さらに色まで提案する仕事へ。
塗装職人が考えなければならない範囲そのものが広く、そして少し複雑になってきたのです。
そこで今回は、小林塗装が長年住宅塗装に携わってきた経験も踏まえながら、昔の外壁塗装と今の外壁塗装では何が変わり、反対に何が変わってはいけないのかを、職人が実際に現場で考えていることまで含めて、じっくり掘り下げてみたいと思います。
昔を懐かしむだけでも、最新塗料を持ち上げるだけでもない、少し現場寄りの外壁塗装史です。
- ■ 昔の外壁塗装と現在の外壁塗装の大きな違い
- ■ 昔と今では住宅の外壁材がどう変わったのか
- ■ 油性・溶剤形から水性・低VOC塗料へ進んだ背景
- ■ アクリル・ウレタン・シリコン・フッ素・無機など塗料性能の変化
- ■ 昔の刷毛仕事と現在のローラー塗装の違い
- ■ 下地処理・下塗り・シーリングが重要になった理由
- ■ 職人の経験とメーカー施工仕様をどう考えるべきか
- ■ 昔と現在で大きく変わった塗装工事の安全管理
- ■ 外壁の色選びやデザイン提案はどう進化したのか
- ■ 昔から現在まで変わらない「良い外壁塗装」の基本
1. 昔の外壁塗装と今の外壁塗装は何が一番違う?
まず結論からお伝えすると、一番大きく変わったのは、「職人が塗る前に考えなければならないことが増えた」ことだと思います。
昔も現在も、外壁塗装の目的が住宅を雨や紫外線などから守り、美観を回復させることである点は変わりません。
ただ、その目的へたどり着くまでの道筋が、以前よりかなり細かくなりました。
昔の塗装現場では、親方や職長が建物をひと通り眺めて、「ここは少し削った方がいいな」「今日は南面からやろう」「この下地なら、このくらいの感じでいける」と判断する場面が、現在より多くありました。
もちろん当時にも材料メーカーの仕様はありましたが、最後に現場を納めるうえでは、職人自身が積み重ねてきた経験が占める割合がかなり大きかったのです。
ここでいう経験は、単に「何年仕事をしたか」という数字ではありません。
朝、壁を触ったときの冷たさ。
旧塗膜へケレンを入れたときの手応え。
塗料を刷毛へ含ませたときの重さ。
夕方になるにつれて変わる風。
そうした小さな違いを何年も繰り返し経験することで、「今日はいつもと少し違うな」と気付けるようになります。
熟練した職人ほど、こうした違和感を無視することなく、「たぶん大丈夫だろう」で押し切るのではなく、「なぜ今日はこう感じるんだろう」と一度冷静に考えます。
そして、その小さな引っ掛かりが、材料の吸い込み、湿気、気温、下地の状態などを見直すきっかけになることがあります。
良い意味で言えば、昔の現場は非常に臨機応変でした。
ただし悪い意味で言えば、「親方が変われば、施工方法も少し変わる」という適当な世界でもあります。
だから同じ塗料でも、希釈、刷毛さばき、塗り厚、乾燥の見方などに職人ごとの差が出やすかったわけです。
現在では、塗料メーカーが製品ごとに標準使用量、希釈率、施工方法、塗り重ね乾燥時間、適用下地などを細かく定めています。
ですから職人の経験は現在でも重要ですが、経験だけで施工方法を決めるのではなく、メーカー仕様という共通の基準を確認しながら現場へ落とし込むことが基本です。
ただし、ここで勘違いしてはいけないのは、仕様書を読めば職人の経験がいらなくなるわけではないということです。
仕様書には「気温○℃以上」「標準使用量○kg/㎡」とは書いてあっても、「昨日の雨で、この家の北面がどのくらい水分を含んでいるか」までは書いてありません。
だから現在の職人は、メーカー仕様を守りながら、そのうえで「今日のこの壁へ、どう施工すれば仕様の意図をきちんと実現できるのか」を考えます。
数字だけを見るのでもなく、感覚だけに頼るのでもなく、その間をつなぐことが現在の施工技術になっています。
「俺は昔からこれでやってきたから大丈夫」だけでは通用しにくくなりました。
しかし同時に、「カタログに書いてあるから」と、目の前の下地を見ない施工も危険です。
経験と仕様をどちらも使えることが大切です。
ここが昔と現在をつなぐ重要な部分だと思います。
| 比較項目 | 昔の外壁塗装 | 現在の外壁塗装 |
|---|---|---|
| 施工判断 | 職人・親方の経験を重視 | 経験+メーカー施工仕様 |
| 外壁材 | モルタル・木部・鉄部など | サイディング・ALC・金属など多様 |
| 塗料 | 比較的種類が限られていた | 水性・弱溶剤・高耐候・機能性など多数 |
| 塗装道具 | 刷毛の比重が大きい | ローラー+刷毛+機械工具 |
| 安全 | 経験則に頼る部分も多い | SDS・保護具・リスク管理 |
| 品質管理 | 親方の目による管理 | 仕様・塗布量・写真・検査を組み合わせる |
| 色選び | 標準色・現場調色 | 色見本+シミュレーション+配色提案 |
| お客様への説明 | 比較的シンプル | 工程・材料・保証・写真など詳細化 |
つまり現在の外壁塗装は、昔の技術が不要になったわけではありません。
昔からある「きれいに塗る技術」の上へ、材料知識、診断、施工管理、安全、説明という能力が積み重なったと考えるのが自然です。
仕事が簡単になったというより、職人が考える守備範囲が広くなったのだと思います。

昔の経験も、今の施工仕様も、どちらも大切にしたい ニャ。
数字と現場感覚をうまく合わせるのが、今の職人技だ ニャ♪
2. 昔と今では住宅の外壁そのものが違います
塗装方法が変わった理由を考えるとき、塗料だけを見るのでは不十分です。
なぜなら、そもそも塗る相手である住宅そのものが変わっているからです。
昔と今の職人を比べるなら、使っている材料だけでなく、相手にしている建物まで一緒に見なければ公平ではありません。
小林塗装でも築年数が経過した住宅へ伺うと、モルタル外壁、木製破風、木製戸袋、鉄製手すり、トタンなど、職人が素材そのものへ直接手を入れる部位を多く見かけます。
こうした住宅では、ケレン、パテ処理、木部補修、ひび割れ補修など、塗る前の下準備が、そのまま完成後の仕上がりへつながります。
例えばモルタルのひび割れを見たとき、職人は幅だけを測っているわけではありません。
ひびがまっすぐなのか、開口部から斜めに伸びているのか。
以前補修した跡が再び割れているのか。
周囲を軽く叩いたときに浮いた音がしないか。
目に見える一本の線から、その裏側で何が起きているのかを想像します。
木部も同じです。
表面が黒ずんでいるからといって、すべて腐っているわけではありません。
逆に木の表面はまだ形を保っていても、指で押せば柔らかくなっている場合があります。
塗料を選ぶ前に「この木は塗れる状態なのか?」を判断しなければなりません。
鉄部なら、表面に薄く出た錆なのか、錆が進んで板厚そのものが痩せているのかで対応は変わります。
職人は「錆びているから錆止めを塗ろう」と一足飛びには考えず、まず、どこまで健全な素地をつくれるかを考えます。
こうした住宅では、素材が比較的分かりやすい一方で、職人の「見る・触る・削る」という感覚が非常に重要でした。
素材と正面から付き合う仕事です。
現在の住宅では、窯業系サイディングや金属外装材など、工場で製造された外装材が広く使われています。
こうした外壁になると、モルタルのように「素材を見れば大体分かる」というだけでは足りなくなります。
サイディング外壁を調査するとき、職人は表面の色あせだけを見ているわけではありません。
板間目地のシーリング、釘周り、反り、浮き、欠損、吸水状態、チョーキング、既存仕上げの種類などをまとめて確認します。
特に難しいのは、見た目が似ていても、表面処理や既存塗膜によって塗装適性が違うことです。
外壁を見て「サイディングですね」で判断を止めてしまうのではなく、「このサイディングは、どういう表面なのか」まで一段深く見る必要があります。
ここで怖いのは、塗った直後ではきれいに見えてしまうことです。
塗装直後は艶も出て、色もそろいます。
ところが塗料と下地の相性が悪ければ、数年後に密着不良として結果が出ることがあります。
ですから現在の職人ほど、「塗れるかどうか」より先に「これは何なのか」をちゃんと確認しなければなりません。
分からなければ調べる。
必要ならメーカーへ確認する。
知らない材料を、知ったつもりで塗らない。
これも現代の職人技だと思います。
昔は素材を深く読む力が非常に重要でした。
現在はそこへ建材の商品特性や既存仕上げを確認する力が加わっています。
住宅が高度化したぶん、塗装店にも「手の技術+調べる技術」が必要になったわけです。
3. 外壁塗料は昔から今までどう進化してきた?
「昔と今で何が一番変わりましたか?」と聞かれれば、多くの方が最初に思い浮かべるのは塗料だと思います。
実際、塗料は長い年月のなかで改良され、使用される樹脂や顔料、添加剤、硬化の仕組みなども大きく進化してきました。
昔の建築塗装では、現在ほど樹脂グレードや機能性が細かく商品化されていませんでした。
それでも塗料の基本的な役割は現在と同じで、素材を雨水、紫外線、錆、汚れなどから守りながら、美観を整えることです。
選択肢が少ないことは不便ですが、職人側から見ると、一つの材料を長く使い込めるという面もありました。
同じ塗料を春にも夏にも冬にも使っていると、「この材料は暑い日はこのくらい伸びる」「今日は少し重いな」という癖が、だんだん身体へ入ってきます。
職人は塗料缶を開け、攪拌し、刷毛やローラーへ取った瞬間に、いつもとの違いを感じることがあります。
もちろん感覚だけですべてを判断するわけではありませんが、材料へ長く触れているからこそ気付けることがあります。
昔は商品数ではなく、材料との付き合いの深さが職人の武器になっていた。
そんな側面は確かにあったと思います。
現在では、アクリル系、ウレタン系、シリコン系、フッ素系などさまざまな樹脂系塗料があり、さらにラジカル制御技術、無機成分を組み合わせた製品、低汚染型、遮熱型など、多種多様な塗料があります。
選択肢が増えたことで、その住宅の状態やご予算、次回のメンテナンス計画などに合わせた提案をしやすくなりました。
これは大きな進歩です。
ただし職人側からすると、選択肢が増えたということは、選び間違える余地も増えたということです。
現場で塗料を選ぶとき、「一番高いものなら安心」とは考えません。
まず下地は何か。
既存塗膜は何か。
吸い込みは強いか。
ひび割れや動きはあるか。
艶はどの程度必要か。
お客様は次の塗り替えを何年後くらいに考えているか。
そうした条件を重ねながら候補を絞ります。
例えば、非常に高耐候な上塗り材を選んだとしても、その下の既存塗膜が弱っていれば、その弱い層から剥がれる可能性があります。
高性能な上塗りを使えば、下地の弱さまで消してくれるわけではありません。
だから職人の頭の中では、「この塗料は何年持つか」だけではなく、「この住宅で、この下地処理をして、この仕様で塗った場合に、どこまで性能を引き出せるか」を考えます。
ここを飛ばして商品名や「○○年耐久」という数字だけが先に立つと、外壁塗装が塗料グレードを買うだけの工事のように見えてしまいます。
でも実際の塗装は、下地処理、補修、下塗り、中塗り、上塗りがつながった一つの施工システムです。
上塗りだけが単独で住宅を守っているわけではありません。
昔は「限られた材料を深く使いこなす力」が大きく、現在は「多くの材料から正しく選び、仕様に沿って使いこなす力」がより重要になりました。
ですから塗料の進歩は、材料を便利にしただけでなく、職人に求められる考え方まで変えたのだと思います。
4. 溶剤形中心から水性・低VOCへ|外壁塗装の環境性能の変化
昔の塗装現場を知っている方なら、「塗装屋さんが来ると、独特のシンナー臭がした」という記憶をお持ちかもしれません。
現在でも溶剤形塗料は大切な材料ですが、建築塗装の世界では水性化・低VOC化が大きく進んできました。
昔は塗料を評価するとき、密着するか、艶が出るか、長持ちするか、といった完成後の性能へ意識が向きやすかったと思います。
しかし現在は、それだけではありません。
職人が施工している最中の臭気はどうか。
お客様はその家で生活できるか。
隣家までの距離はどのくらいか。
小さなお子さんや高齢の方はいないか。
材料を選ぶときに、こうしたことまで考えるようになりました。
職人にとっては慣れた臭いでも、お客様や近隣の方にとってはそうではありません。
「自分たちは平気だから大丈夫」という考え方では、住宅街の塗装工事は成り立ちにくくなっています。
昔から仕事をしている職人のなかには、水性塗料が出始めた頃の印象が強く残っていて、「水性は少し頼りない」と感じている人もいます。
これは、昔の材料を実際に使った経験があるからこその感覚でしょう。
ただし塗料は、その後も改良が続いています。
現在では住宅外壁へ使用できる、耐候性や付着性に優れた水性塗料も数多くあります。
ですから、昔の経験だけから「水性だから弱い」と決めてしまうのは、現在の材料を正しく見ているとは言えません。
その一方で、水性なら新しくて優秀、溶剤形なら古いという考え方も違います。
鉄部、既存塗膜、下地の種類、施工環境などによっては、弱溶剤形や専用の下塗り材を選んだ方がよい場合もあります。
職人が材料を選ぶときに考えているのは、「どちらが新しいか」ではありません。
この下地へ、この環境で、この材料を使う理由があるか。
最終的には、そこです。
昔は「匂いが強い塗料の方が丈夫そうだ」という、今から見ると少し豪快な感覚もありました。
現在は仕上がり性能だけではなく、施工する人、暮らしている人、近隣、環境まで含めて塗料を評価する時代になっています。
塗料の進歩は、耐候年数の数字だけではなく、こうした部分にも表れています。
5. 昔の刷毛塗りと現在のローラー塗装はどちらが優れている?
塗装技術の変化として一番分かりやすいのが、刷毛とローラーではないでしょうか。
昔の塗装職人ほど刷毛を握っている時間が長く、現在の住宅外壁では広い面をローラーで仕上げる施工が中心になっています。
刷毛塗りというと、刷毛へ塗料を付けて往復させるだけに見えるかもしれません。
しかし実際には、どこまで塗料を含ませるか、最初にどこへ塗料を置くか、どの方向へ配るか、最後にどちらへ刷毛を通すかまで考えています。
ダメ込みで際を出すときも、毛先だけで恐る恐る線を描いているわけではありません。
刷毛の腹へ必要量を持たせながら、穂先をコントロールして線を決め、同時に必要な塗膜もつくります。
現場の経験が浅いと、「はみ出したくない」という気持ちが強くなって、どうしても刷毛先だけで細かく触りたくなります。
ところが触る回数が増えるほど、塗膜が薄くなってしまったり、刷毛目が残ったりすることがありますが、上手な職人ほど、一回一回の刷毛運びに迷いが少なくなります。
塗料を乗せる、配る、整えるという動作が一続きになっていて、見ているとそれほど速そうではないのに、仕事はどんどん進みます。
速い職人は、手を速く動かしているというより、余計な一手が少ない。
刷毛仕事を見ると、この違いがよく分かります。
また昔の職人は、刷毛を使い捨てにするのではなく、きちんと洗って毛先を整えながら使いました。
長く使っているうちに、「この刷毛は見切りのラインが出しやすい」「こっちは少し荒い下地に向いている」と、一本一本に役割ができてきます。
現在の住宅外壁では、広い面積を効率良く均一に塗装しやすいローラーが主役です。
だからといって、「ローラーなら誰がやっても同じ」というほど簡単ではありません。
短毛、中毛、長毛という毛丈だけでも仕上がりは変わります。
さらに毛の密度、塗料の含み、吐き出し、塗料粘度、外壁の凹凸、ローラーを押し付ける圧力まで関係します。
職人は壁を見ながら、「この凹凸なら、もう少し含みの良いローラーにしよう」「この塗料は少し重いから、押し付けずに運んだ方がいい」と考えます。
経験が浅いころは、ローラーを壁へ強く押し付けがちです。
力をかければしっかり塗っているような感覚になりますが、実際にはローラーへ含ませた塗料を絞りながら転がすことになり、必要な量を残しにくくなることがあります。
反対に、塗料を大量に付ければよいわけでもありません。
付け過ぎれば垂れたり、凹部へ材料がたまったり、ローラー肌が必要以上に荒くなったりします。
ローラーは「転がして色を付ける道具」ではなく、「塗料を配り、均し、塗麺を整える
道具」です。
ここを理解すると、ローラーにも職人差が出る理由が分かります。
昔の刷毛職人を見ると、「やっぱり昔の人は上手だった」と感じる場面は確かにあります。
ただ、現在の優秀な職人は、刷毛、ローラー、ミニローラー、吹付けなどを場所や塗料に合わせて使い分けます。
つまり昔は、一つの道具を身体の一部のように使い込む技術が強く求められました。
現在はそれに加えて、複数の道具の性格を理解し、その場所に一番合うものを選ぶ技術が必要になっています。
道具が進歩したから職人技がなくなったのではありません。
「一つの道具を深く使い込む技術」から、「複数の道具を理解して適材適所で使う技術」へ、職人技の形が広がったと考える方が自然だと思います。

刷毛にもローラーにも、それぞれ得意な仕事がある ニャ。
場所に合わせて道具を選ぶと、仕上がりがもっと良くなる ニャ♪
6. 昔と今で変わった外壁塗装の下地処理・下塗り
上塗り塗料は大きく進歩しましたが、外壁塗装の品質を本気で考えるなら、それ以上に見てもらいたいのが下地処理と下塗りです。
完成するとほとんど見えなくなりますが、職人側からすると、この工程で工事の成否がかなり決まります。
錆びた鉄部なら、浮いた錆や弱い旧塗膜を除去する。
木部なら傷んだ塗膜を研ぎ、素材の状態を見る。
モルタルならひび割れや浮きを確認する。
こうした基本は昔も今も変わりません。
職人が剥がれた塗膜を見つけたとき、すぐに「ここだけ塗り直そう」とは考えません。
まず、なぜここだけ剥がれたのかを考えます。
雨水が回っているのか。
下地が弱っているのか。
以前の塗膜との相性が悪かったのか。
錆が内側から押しているのか。
原因によって、直し方は変わります。
原因を考えず、剥がれたところを軽く削って上から塗れば、一時的にはきれいになるでしょう。
けれど原因が残っていれば、また同じ場所に不具合が出る可能性があります。
塗装は、傷みを色で隠す仕事ではありません。
なぜ傷んだのかをできるだけ読み取り、弱い部分を処理したうえで、新しい塗膜をつくる仕事です。
現在はシーラー、フィラー、プライマー、防錆塗料、難付着下地用の下塗り材など、下地に合わせた材料が豊富にあります。
これは施工品質を安定させるうえで大きな進歩です。
ただし、選択肢が増えれば選び間違える可能性も増えます。
吸い込みの激しいモルタル、工場塗装されたサイディング、ガルバリウム鋼板へ、同じ下塗り材を使うことはできません。
例えばモルタルへシーラーを塗ったとき、吸い込みが激しければ、塗ったそばから艶が消えていくことがあります。
そこで職人は、「一回塗ったから下塗り完了」ではなく、「この状態で本当に下地が落ち着いたか」を見ます。
逆に、下塗り材が表面へ必要以上に残っているなら、何でも追加すればよいわけではありません。
下塗りは多ければ多いほど安心、というものでもないからです。
現在では「外壁塗装は下塗り・中塗り・上塗りの3回塗り」という言葉が、一般のお客様にもかなり知られるようになりました。
工程に関心を持っていただけるという意味では、とても良いことです。
ただし職人側からすると、3回という数字だけでは品質は判断できません。
例えば、必要量よりかなり薄く伸ばした塗装を3回行った場合と、メーカー仕様に沿った使用量を確保して3回施工した場合。
どちらも書類上は「3回塗り」ですが、中身は同じではありません。
逆に、塗布量だけを意識して一度に材料を付け過ぎても、垂れ、乾燥不良、縮みなど別の問題につながることがあります。
職人はローラーを動かしながら、「この面積に対して材料の減り方はどうか」「ローラーへ含ませる量が少なくなっていないか」「凹部まできちんと入っているか」を見ています。
何回塗ったかではなく、なぜその材料を、その回数、その使用量で施工したのか。
現在の外壁塗装では、そこまで説明できて初めて、本当の意味で工程管理ができていると言えるのではないでしょうか。
7. シーリング工事が現在の外壁塗装で重要になった理由
昔のモルタル外壁中心の住宅塗装と、現在のサイディング住宅を比べたとき、大きく存在感が増えた工事の一つがシーリング工事です。
現在の外壁塗装では、塗膜だけを見ていても住宅外装全体の状態は判断できません。
窯業系サイディングでは、ボード同士の継ぎ目やサッシ周りなどへシーリング材が使用されています。
現場へ行くと、外壁表面はまだ比較的きれいなのに、目地のシーリングだけが硬くなり、ひび割れたり、破断していたりする住宅も珍しくありません。
こうした住宅を見ると、職人は「外壁を塗れば大丈夫」とは考えません。
塗膜だけを新しくしても、目地部分が動きへ追従できなくなっていれば、外装システムとしては弱い部分が残るからです。
現在のサイディング住宅では、外壁材とシーリングを別々に見るのではなく、一つの外装システムとして見る。
これが大切です。
サイディング目地では既存シーリングを撤去して打ち替える施工が基本となることが多い一方で、サッシ周りなどは納まりや防水構造によって増し打ちとする場合があります。
ですから、「全部撤去する業者が丁寧」「増し打ちは全部手抜き」といった単純な判断はできません。
職人は、既存のシーリングがどこへ接着しているか、どの程度の厚みを確保できるか、撤去によって周囲を傷めないか、バックアップ材やボンドブレーカーの状態はどうかを見ます。
さらに目地幅や深さ、プライマーの塗布、二面接着、充填後の押さえまで、シーリングにも塗装とは別の基本があります。
こうして考えると、現在の塗装店は昔ながらの「壁へ塗料を塗る塗装屋」から、少しずつ住宅外装全体を診断し、必要な工事を組み合わせる専門店へ仕事の幅が広がってきたことが分かります。
見積書を見る際も、上塗り塗料の商品名だけでなく、シーリングをどこまで、どの方法で行うかまで見ていただきたいところです。
8. 昔は職人の勘、今はメーカー仕様?外壁塗装の施工管理の変化
昔の塗装職人の話になると、「昔の親方は塗料を見ただけで全部分かった」というような話が出ることがあります。
多少は昔話らしい味付けが入っているかもしれませんが、経験豊富な職人が塗料の粘度や下地の状態を身体感覚で読む力を持っていること自体は確かです。
ただし現在は、その感覚だけに頼る施工では不十分です。
今の施工管理では、職人の感覚とメーカーの数値、その両方を見ることが重要になっています。
現在の塗料カタログや施工仕様書には、希釈率、標準使用量、塗装間隔、施工可能な温度条件などが細かく記載されています。
2液形塗料なら、主剤と硬化剤の配合比率や可使時間にも注意が必要です。
職人経験とは、こうした数値を無視するための免許ではありません。
むしろ経験がある職人ほど、「この塗料はこういう仕様だから、今日の気温ならこのくらいの進め方がいい」「朝の北面はまだ少し冷たいから、先に日当たりの良い面を進めよう」と考えます。
工事の仕様書を守ったうえで、今日の現場へどう落とし込むか、その判断に経験を使う。
これが現在の塗装職人に必要な考え方です。
例えば「外壁は3回塗りました」と聞けば、一般のお客様なら安心されると思います。
ところが職人は、その3回で本当に必要な塗膜がつくられているかを見ています。
薄く伸ばして3回塗ったものと、メーカー仕様に沿った使用量を確保した3回塗りでは、全く意味が違います。
ただし、だからといって塗料を厚く付ければよいわけでもありません。
材料を一度に付け過ぎれば、垂れ、乾燥不良、縮みなどにつながることがあります。
つまり職人は、単に「材料を減らさないようにする」のではなく、必要な材料を、必要な厚みで、できるだけ均一に残すことを考えながら塗っています。
温湿度計は便利ですが、壁を触ったときの微妙な湿り気までは教えてくれません。
施工仕様書は重要ですが、補修箇所の段差をあと何回研げば仕上げに響かなくなるかまでは書いてありません。
逆に、人間の感覚だけでは正確な配合や塗布量を管理しにくいこともあります。
昔ながらの身体感覚+現在のメーカー仕様。
この二つを対立させる必要はありません。
数字を守りながら現場も見る。
そういう職人が、結局は一番安定した施工をしやすいのだと思います。
9. 昔と今で大きく変わった外壁塗装の安全管理
外壁塗装の歴史を語るのであれば、安全管理の変化は避けて通れません。
そしてこの部分については、「昔の職人の方が何でも優れていた」と美化し過ぎない方がよいと思います。
塗装工事では高所へ上がります。
また塗料や溶剤、洗浄剤を扱います。
ケレンをすれば粉じんも出ます。
考えてみれば、もともと安全管理がかなり必要な仕事です。
昔は、「俺は何十年もこうしてきたから大丈夫」という考え方が通る場面も多くありました。
ただ、今まで事故がなかったことと、その作業方法が安全だったことは同じではありません。
現在では、化学物質についてSDSを確認し、危険性や有害性を把握したうえで、必要なリスク低減措置や保護具を考えることが求められています。
安全管理が身についてくると、職人の考え方も少し変わります。
「これくらいなら大丈夫かな」ではなく、「もし事故が起きるとしたら、どこから起きるだろう」と考えるようになります。
足場の上に材料を置く場所。
開口部の位置。
ホースや電線の取り回し。
風が強くなったときの飛散。
事故が起きてから考えるのではなく、起こる前に潰していく仕事です。
昔は「高いところが怖くない職人」が頼もしく見えた時代もあったと思います。
でも現在なら、本当に優秀なのは高所を怖がらない人ではなく、転落する可能性を事前に減らせる人です。
ヘルメット、墜落制止用器具、足場、保護具、飛散防止養生。
どれも完成した外壁の艶には直接現れません。
しかし、職人が怪我をしたり、お客様や近隣の方へ事故が及んだりすれば、どれだけきれいな塗膜をつくっても「良い工事」とは言えません。
住宅塗装の場合、そこは工事現場であると同時に、お客様の生活の場です。
小さなお子さんが玄関から出てくることもあれば、自転車が通ることもあり、隣家には車が停まっています。
「昔はこんなことまでやらなくても大丈夫だった」という話は、仕事が終わった後の昔話なら少し面白いかもしれません。
でも現場では、今日も誰も怪我をせず、周囲へ迷惑を掛けず、全員が無事に帰ることの方がずっと大切です。
安全管理も、今では立派な職人技の一つです。

きれいに塗れても、事故が起きたら良い工事とは言えない ニャ。
みんなが無事に帰るところまでが、職人の仕事だニャ♪
10. 昔の色選びと今のおしゃれな外壁塗装の違い
外壁塗装で大きく変わった分野として、小林塗装が特に面白いと感じているのが色彩提案です。
昔は「今と同じくらいの色で」「汚れが目立ちにくい色で」「この見本の中ならこれかな」と決めるケースが多く、現在ほど外観全体のデザインとして色を考えることは一般的ではありませんでした。
現在は塗料用標準色などを利用し、色番号によってお客様、塗装店、販売店、メーカーが色を共有しやすくなっています。
これは色の伝達ミスを減らす意味でも、とても良い仕組みです。
ただし、色番号が決まれば色選びが終わるわけではありません。
小さな色見本で見る色と、外壁全面へ塗った色では印象が変わることがあります。
さらに晴天、曇天、朝、夕方、日向、日陰でも見え方は変わります。
ですから色を提案するとき、職人やカラー提案者は、「この番号は何色か」だけでなく、「この色が、この家の、この面積へ塗られたらどう見えるか」まで想像します。
例えばお客様から「グレージュが好きです」と言われたとします。
グレージュという方向性は分かりますが、それだけで最終色は決まりません。
サッシは黒なのかシルバーなのか。
玄関ドアは木目なのか。
屋根はブラウンなのか黒なのか。
タイルは赤みが強いのか黄みが強いのか。
周囲にある色によって、同じグレージュでも見え方が変わるからです。
現在はグレージュ、ウォームグレー、ニュアンスカラー、くすみ色、ネイビーなど、住宅色にもインテリアやファッションの影響が入っています。
ただし洋服なら来年着替えられますが、外壁は一度塗れば10年以上付き合う可能性があります。
そこで考えるのが、「今っぽさ」と「10年後にも違和感が少ないこと」をどう両立させるか。
流行だけを追えば数年後に古く見えることがありますし、無難さだけを追えば、その住宅が持っている個性まで消えてしまいます。
窯業系サイディングの凹凸を利用して、目地と凸部で色を変えるダブルトーン塗装など、現在は単色ではない仕上げも増えました。
ただ二色を選べばおしゃれになるわけではありません。
凹色と凸色の明度差をどこまで付けるか。
色相は近づけるか。
コントラストをどこまで出すか。
少し変えるだけで、落ち着いた高級感にも、少し派手な印象にも変わります。
職人としては、塗装技術だけでなく、「この凹凸なら、どのくらい凸部へ色が乗るか」まで考えます。
サイディング柄が浅ければ色分けがぼやけますし、凹凸が深ければコントラストが強く見えやすくなります。
昔は「色をきれいに塗る」ことが中心だった仕事が、現在は「その住宅をどう見せるか」まで考える仕事へ広がっています。
色彩提案もまた、現代の住宅塗装で職人や塗装店に求められる新しい技術の一つです。
11. 写真・保証・説明|お客様との関係も昔の外壁塗装とは変わりました
昔の塗装工事では、「近所の塗装屋さんだから」「知り合いの大工さんに紹介してもらったから」と、人間関係の中で仕事が決まることが現在より多くありました。
良く言えば、契約書より前に信頼関係がある商売です。
これはとても良い文化です。
一方で、「細かいことは任せておいて」と言えば、お客様へ施工内容を詳しく説明しなくても成立してしまう面もありました。
現在は施工前、高圧洗浄、下地補修、シーリング、下塗り、中塗り、上塗り、完工などを写真で記録し、お客様へ説明する塗装店も増えています。
これはスマートフォンが便利になったからだけではありません。
外壁塗装では、完成すると大切な工程ほど見えなくなるからです。
下塗りも補修も、工事が終われば上塗りの下へ隠れます。
ですから「ちゃんとやってあります」ではなく、「この場所がこう傷んでいたので、このように補修しました」と見える形で伝えることに意味があります。
昔ながらの腕の良い職人には、口数は少なくても仕事を見れば分かる、という人がいました。
黙々と良い仕事をする姿は、今見ても格好良いものです。
ただ一般のお客様へ、「今塗っている白い材料が何のためなのかは、仕事を見れば分かるでしょう」と言うのは少し無理があります。
お客様は塗装職人ではありません。
知らなくて当然です。
なぜこの下塗り材を使うのか。
なぜこのひび割れには、この補修方法を選ぶのか。
なぜ晴れているように見えるのに今日は塗装しないのか。
専門家だから知っていて当然なのではなく、専門家だからこそ分かりやすく説明する。
ここまでが現在の塗装店の仕事だと小林塗装では考えています。
現在は工事前に、「外壁塗装は3回塗りですよね」「シーリングは打ち替えですよね」「無機塗料の方が長持ちしますか」と調べてからご相談いただく方も増えています。
これはとても良いことです。
ただインターネット上には、正確な情報もあれば、特定の商品を売るために少し極端に書かれたものや、住宅条件を無視した一般論もあります。
だからといって、塗装店側が「ネットの情報は信用しない方がいい」と全部否定するのも違います。
必要なのは、「その情報は一般論としては合っています。
ただ、この家の場合はここが違います」と、目の前の住宅へ落とし込んで説明することです。
情報が増えたから専門家がいらなくなったのではありません。
情報が増えたからこそ、専門家には「どの情報をこの家へ当てはめるべきか」を整理する力が求められています。
12. 名古屋の外壁塗装は昔より施工条件を細かく見る時代へ
小林塗装が施工している名古屋市や愛知県周辺では、外壁塗装を考えるうえで気候条件や立地環境も無視できません。
同じ塗料、同じ職人、同じ外壁材でも、季節や方角、周囲の環境が違えば、塗料の乾き方や外壁の傷み方は変わります。
気象庁の1991~2020年平年値では、名古屋の年間降水量は1,578.9mm、年間平均気温は16.2℃。
7月の平均湿度は73%、8月の平均日最高気温は33.2℃で、9月の平年降水量は231.6mmです。
もちろん昔の職人も天気を見ていました。
むしろスマートフォンの雨雲レーダーがなかった時代ですから、空の色、雲の動き、風向き、湿気、季節感を読む力は、昔の職人の方が鋭かったかもしれません。
長く同じ地域で仕事をしている人ほど、「この風が出ると天気が変わる」「この雲は少し怪しい」といった地域独特の感覚を持っています。
現在は、そこへ天気予報、雨雲レーダー、気温、湿度などのデータを加えることができます。
昔の感覚を捨てるのではなく、現場感覚とデータを重ねて判断できるようになったわけです。
例えば朝、天気予報では「晴れ」でも、北面の外壁を触るとまだ少し冷たく湿った感じが残っていることがあります。
そこで「晴れマークだから塗れる」とは決めません。
反対に、少し曇っていても施工条件として問題がなく、乾燥時間を確保できるなら作業できる場合もあります。
職人は天気のアイコンだけではなく、現場そのものを見ます。
名東区、天白区、守山区など丘陵地の住宅では、敷地の高低差や擁壁によって足場計画が難しくなる場合があります。
道路から見れば2階建てでも、裏側へ回るとかなり高く感じる住宅もあります。
緑が多く北面の日照が少ない住宅では、藻や苔が出やすい場合があります。
一方で南西面は強い紫外線や熱の影響を受けやすく、同じ一軒の住宅でも面によって退色やシーリングの傷み方が違います。
幹線道路沿いなら埃や汚れが付きやすく、沿岸部に比較的近い地域では、立地条件によって金属部の腐食状態も確認します。
職人が建物を一周するとき、ただ「汚れているな」と見ているわけではありません。
「なぜ北面だけ苔が多いのか」「なぜこの雨樋だけ退色が強いのか」「この鉄部だけ錆が深いのはなぜか」と、劣化の偏りから環境を読みます。
昔より情報が増えたから、職人が考えなくてもよくなったわけではありません。
むしろ情報が増えたからこそ、「この住宅に必要なのはどの情報か」を選ぶ力が重要になっています。
情報量が増えるほど、最後は現場を見る力へ戻ってくる。
塗装という仕事の面白いところです。
13. 便利になった現代の外壁塗装で失いたくない昔の職人技
ここまで読むと、現在の外壁塗装は昔より何もかも進歩しているように感じるかもしれません。
確かに材料、道具、情報、安全管理の仕組みは大きく進歩しました。
ただ、小林塗装としては、便利になった時代だからこそ、意識して残しておきたい昔の職人技もあると思っています。
昔の職人は刷毛を何度も洗い、櫛を入れ、毛先を整え、自分の使いやすい状態へ少しずつ育てていました。
もちろん今より道具を長く使う必要があった事情もあります。
ただ、道具を大切にするというのは、単なる節約ではありません。
毎日道具を見ていれば、「この刷毛は少し毛先が開いてきた」「このローラーは毛抜けし始めた」「このヘラは角が潰れてきた」と、小さな変化へ気付きます。
道具の状態に気付ける人は、施工面の小さな変化にも気付きやすいように感じます。
現在は消耗品も増えましたが、道具を雑に扱う癖は、いつの間にか仕事そのものの雑さへつながることがあります。
使った道具を洗う。
材料を片付ける。
翌日の準備をする。
派手ではありませんが、こういうところに職人の仕事観が出ます。
昔の熟練職人は、目の前の壁を塗りながら、その壁だけを見ていたわけではありません。
次はどこへ移動するのか。
塗料はあとどのくらい必要か。
足場をどう動くか。
日差しがどちらから回ってくるか。
頭の中では、何手か先まで仕事が進んでいます。
だから本当に仕事が速い職人ほど、意外と慌てて見えません。
腕を猛烈な速度で動かしているのではなく、材料を取りに戻る回数が少ない。
道具を探さない。
やり直しが少ない。
次に何をするかで止まらない。
職人の速さとは、身体を速く動かすことではなく、戻り仕事と迷いを減らすこと。
この感覚は、施工マニュアルだけではなかなか伝えにくい職人技です。
施工仕様書は大切です。
ただし書類には、「この家の北側2階、雨樋の横だけ旧塗膜が少し弱い」とまでは書かれていません。
手で触る。
軽く削る。
音を聞く。
水をかけたあとの吸い込みを見る。
こうした現場へ立たなければ得られない情報は、現在でも非常に重要です。
職人の経験は、メーカー資料を否定するためにあるのではありません。
資料だけでは拾えない小さな違和感を見つけるために使うものだと思います。
昔ながらの職人気質から一つだけ残してほしいものを選ぶなら、小林塗装では仕上がりへの執着だと思います。
見積書に書いてあるから直すのではありません。
監督から言われたから手直しするわけでもありません。
自分で見たときに、「これは、このままでは格好悪い」と感じられること。
養生を剥がしたラインがほんの少し乱れている。
雨樋の裏へ小さな透けがある。
塗料が一滴飛んでいる。
補修跡が光の角度によって少し目立つ。
もしかすると、お客様は気付かないかもしれません。
それでも、自分が気になるから直す。
これは費用対効果や作業効率だけでは説明しにくい感覚です。
しかし、こういう小さな積み重ねが、完成した住宅を見たときの「何となくきれい」という印象につながります。
材料がどれほど高性能になり、施工管理システムやAIが発達したとしても、「ここを、もう少しきれいにできる」と気付く感覚まで塗料メーカーが缶の中へ入れてくれることはありません。
最後の品質を決めるところには、今でも人の目と手が残っています。
14. まとめ|昔と今、結局どちらの外壁塗装が良い?

昔の外壁塗装と現在の外壁塗装を比べると、塗料、外壁材、施工方法、安全管理、色彩提案、お客様への説明まで、ほとんどすべての分野が少しずつ変わってきたことが分かります。
塗料は高性能化し、水性化や低VOC化も進みました。
外壁材も、モルタル、木、鉄だけではなく、窯業系サイディング、ALC、金属外装材などへ広がっています。
そのため現在の職人には、単に刷毛やローラーできれいに塗る技術だけではなく、下地と塗料の相性を判断し、シーリングを診断し、施工仕様を確認し、安全まで管理する知識が必要です。
色彩についても、昔のように「元の色に近く塗る」だけではなく、屋根、サッシ、玄関、タイル、周辺環境まで見ながら、建物全体をコーディネートできる時代になっています。
こう考えれば、総合的な性能や選択肢という意味では、現在の外壁塗装の方ができることは明らかに増えています。
ただし、それで昔の職人技が不要になったわけではありません。
下地をよく見る。
弱い部分はきちんと直す。
道具を大切にする。
必要な塗料をきちんと付ける。
乾燥するまで待つ。
仕上がりへ納得できなければ直す。
こうした基本は、昔も現在も変わりません。
むしろ材料が高性能になればなるほど、「良い塗料を使っているから大丈夫」と基本を軽く見ないことが重要です。
- ■ 昔から学びたいもの……手仕事、観察力、段取り、道具への愛着、仕上がりへの執着
- ■ 現在から学ぶもの……材料科学、施工仕様、安全、環境配慮、施工管理、説明力
- ■ これから必要なもの……昔と今をつなぎ、さらに改善し続ける力
ですから、「昔の外壁塗装と今の外壁塗装では、どちらが良いですか?」と聞かれたら、小林塗装では、たぶんこう答えると思います。
今の良い材料を使いながら、昔の上手な職人のように仕事をする。
それが一番良いのではないでしょうか。
高性能な塗料だからと材料へ頼り切らない。
一方で、経験が長いからと職人の勘だけにも頼り切らない。
メーカー仕様を確認しながら、その仕様書には書かれていない目の前の住宅の小さな違いを、自分の目と手で確認する。
昔の職人から刷毛使い、下地を見る力、道具の扱い、段取りを学びながら、新しい塗料、外壁材、安全管理、色彩、施工記録についても学ぶ。
さらに、その理由をお客様へ分かりやすく説明する。
そう考えると、昔と現在を無理に戦わせる必要はありません。
良かった部分は残す。
不合理だった部分は変える。
便利なものは積極的に使う。
ただし便利さへ仕事を丸投げしない。
外壁塗装は確かに進歩しました。
けれど、「もっときれいに仕上げたい」「できるだけ長持ちさせたい」「頼んでくださった方に喜んでもらいたい」という仕事の原点まで、新しいものへ交換する必要はありません。
そこだけは、昔の塗装屋さんと現在の塗装屋さんが、同じ刷毛を持って握手できるところではないでしょうか。

昔の良い技術と、今の便利な技術を上手に合わせたい ニャ。
基本を大切にしながら、もっと良い仕事を目指す ニャ♪
15. 昔と今の外壁塗装についてさらに深掘りQ&A

一概には言えません。
昔の住宅には比較的シンプルな素材構成のものもあり、熟練職人が丁寧に下地処理をして施工した塗膜が、長期間残っているケースは確かにあります。
ただし、それを「昔の塗料だったから長持ちした」と単純に考えることはできません。
昔にも短期間で不具合が出た工事はあったでしょうし、現在でも下地処理や施工仕様を適切に守れば、高耐久な塗装は可能です。
「昔か今か」より、「誰が、何へ、どの材料を、どう施工したのか」を見る方が、塗装の耐久性を考えるうえではずっと正確です。
水性か溶剤形かという分類だけで、耐久性を判断することはできません。
現在の水性塗料は技術的に進歩しており、住宅外壁用として高い耐候性を持つ製品も多くあります。
一方で、鉄部、既存塗膜、施工条件などによっては、弱溶剤形や専用材料が適している場合があります。
水性か油性かではなく、「この下地と用途へ適している塗料か」で判断することが大切です。
刷毛を使う仕事量が非常に多かった職人には、高い刷毛技術を持つ人が多くいました。
毎日長時間同じ道具を使えば、塗料の含ませ方、毛先の使い方、力の抜き方まで身体で覚えていくからです。
ただし、昔の職人全員が刷毛の名人だったわけではありませんし、現在にも非常に上手な職人はいます。
年代より、どんな仕事を、どのくらい考えながら経験してきたかを見る方が正確でしょう。
いいえ。
ローラーは広い外壁面を効率良く、比較的均一に塗装するための非常に優れた道具です。
ただし、毛丈、毛質、塗料の含み、押し付ける力、塗料粘度、外壁の凹凸などによって、塗布量や仕上がりはかなり変わります。
ローラーだから簡単なのではなく、刷毛とは違う種類の技術が必要です。
広い面はローラー、細部やダメ込みは刷毛というように、それぞれの道具が得意な場所へ使い分けることが、現在の住宅塗装では重要です。
高耐候型の樹脂やさまざまな機能性を持つ製品が増え、塗料の選択肢そのものは大きく広がっています。
ただし、実際に住宅でどの程度長持ちするかは、塗料のグレードだけでは決まりません。
下地処理、塗布量、塗り重ね時間、建物の方角、紫外線、雨掛かり、湿気など、多くの条件が関係します。
高性能な塗料を選ぶことと、高耐久な塗装工事を行うことは、似ていますが同じではありません。
材料性能を引き出す施工があって、初めて高性能塗料を選んだ意味が出てきます。
材料や下地、当時の施工仕様によって工程は異なるため、昔の塗装を現在の「下塗り・中塗り・上塗り」という呼び方だけで単純に比較することはできません。
現在はシーラー、フィラー、プライマーなど、下地別にさまざまな下塗り材が体系化されています。
そのため住宅塗装では、下塗り材の選定が非常に重要になっています。
回数を増やすことより、「その下地が何を必要としているか」を考えて適切な下塗りを選ぶこと。
ここを大切にしていただきたいと思います。
現在多いサイディング住宅では、ボードの継ぎ目やサッシ周辺などへシーリング材が使われているためです。
外壁塗膜だけがきれいでも、シーリングが硬化して破断していれば、建物外装全体として良い状態とは言えません。
現在の外壁塗装では、「壁面へ塗料を塗る」だけではなく、「シーリングまで含めて外装全体を見る」ことが重要です。
打ち替えか増し打ちか、プライマー、目地幅、目地深さ、二面接着なども確認しながら施工する必要があります。
安全に関する制度や管理方法は、以前よりかなり整備されています。
現在ではSDS、化学物質のリスクアセスメント、必要な保護具、高所作業の安全対策などを考えることが求められています。
ただし、制度が整ったから自動的に安全になるわけではありません。
どれほど良いルールでも、現場で実行されなければ意味がないからです。
「知っている」だけでなく、「毎日の現場で本当に行う」。
そこまでできて初めて、安全管理が施工品質の一部になると思います。
多少、その傾向はあると思います。
シリコン、フッ素、無機などは比較しやすいため、どうしても塗料グレードへ注目が集まりやすくなります。
しかし外壁塗装は、塗料を買って住宅へ置けば完成する工事ではありません。
建物診断、補修、下地処理、養生、下塗り、塗布量、乾燥時間、職人の施工がつながって、初めて一つの塗膜になります。
良い塗料を選ぶことと、良い外壁塗装工事を選ぶことは同じではありません。
商品名を見るときほど、「その塗料を誰が、何へ、どう施工するのか」まで一緒に見ていただきたいと思います。
できます。
むしろ、それがこれからの塗装職人に一番必要な考え方だと小林塗装では思っています。
昔の職人からは、刷毛やローラーを自分の手のように扱う技能、下地を見る力、段取り、道具を大切にする姿勢、仕上がりへの責任感を学ぶ。
現在の技術からは、進歩した塗料、下塗り材、シーリング材、メーカー施工仕様、安全管理、色彩提案、施工記録などを取り入れる。
そして何より、それらを丸暗記するのではなく、「なぜ、この家ではこの施工をするのか」を自分の言葉で説明できるようになることが大切です。
昔の職人の手を持ちながら、現在の職人の知識を持つ。
そこへ新しい技術を素直に学び続けられる柔軟さが加われば、これからの時代にも長く選ばれる職人になれるのではないでしょうか。
コラム筆者
小林塗装 店主 小林ゆず
住宅塗装の現場に長年携わり、昔ながらの刷毛塗りや下地処理、道具の扱いを学びながら、現在の塗料、外壁材、シーリング材、施工方法についても日々勉強を続けています。
長く現場へ立っているほど感じるのは、塗装工事は材料が新しくなれば、自動的に良くなる仕事ではないということです。
昔から受け継がれてきた基本を大切にしながら、新しい材料や施工技術は正しく取り入れる。
そしてカタログや仕様書だけを見るのではなく、目の前の住宅が何を必要としているのかを考え、お客様の暮らし方やご希望まで含めて、無理のない工事をご提案することを心掛けています。
塗装は昔から続く古い技術でもあり、現在も材料や施工方法が進化し続けている新しい技術でもあります。
どちらか一方だけを正解にせず、昔の良い仕事から学びながら新しい知識も取り入れ、一軒一軒「もう少し良い仕事ができないか」と考え続けること。
それが、塗装職人として大切なことだと思っています。
このコラムは役に立ちましたか?
このページに関連するコラムはこちら











