遮熱塗料の歴史と発展・進化|近赤外線反射から未来のスマート塗膜まで
夏になると、屋根は強い日差しを正面から受け止めます。
真夏の午後、金属屋根や濃い色の屋根に触れれば、思わず手を引っ込めたくなるほどの熱さです。
こうした屋根の温度上昇を抑えるために使われるのが、遮熱塗料です。
今では「屋根塗装には遮熱塗料がおすすめです」という説明をよく耳にしますが、遮熱塗料は、ある日突然生まれた魔法の塗料ではありません。
白く塗って日差しを反射する素朴な知恵から始まり、光と熱の研究、近赤外線反射顔料の開発、樹脂の高耐候化、JIS規格による性能評価、低汚染技術、さらに放射冷却や温度応答型材料へと、少しずつ進化してきました。
結論から申し上げると、遮熱塗料の本質は、屋根に入ってから熱を止めることではなく、太陽光が熱へ変わる前にできるだけ反射することです。
ただし、「遮熱塗料を塗れば室温が必ず何度下がる」「エアコンが必要なくなる」といった単純な話ではありません。
遮熱効果は、屋根の色、材質、断熱材、屋根裏換気、建物の構造、塗膜の汚れ、地域の気候などによって変わります。
このコラムでは、遮熱塗料の歴史と発展をたどりながら、現在の技術、正しい効果の考え方、塗装工事で失敗しないためのポイント、これから期待される次世代技術まで、塗装職人の目線で分かりやすくお伝えします。
- ■ 遮熱塗料が生まれるまでの歴史と時代背景
- ■ 遮熱塗料と高日射反射率塗料の違い
- ■ 近赤外線を反射すると屋根が熱くなりにくい理由
- ■ 白色以外の遮熱カラーが開発された仕組み
- ■ JIS K 5675とJIS K 5603が果たした役割
- ■ 遮熱塗料の効果が建物ごとに異なる理由
- ■ 遮熱塗料のメリット・デメリット・注意点
- ■ 屋根材別の適切な施工方法
- ■ 次世代の放射冷却塗膜やスマート塗膜の可能性
1. 遮熱塗料とは何か|歴史を知る前の基礎知識
遮熱塗料とは、屋根や外壁などの表面に塗装し、太陽光による温度上昇を抑える機能を持たせた塗料の総称です。
なかでも現在、建築用として広く使われているのが、高日射反射率塗料です。
高日射反射率塗料は、太陽光に含まれる光のうち、とくに物質へ吸収されると熱へ変わりやすい近赤外線領域を効率よく反射します。
日本塗料工業会では、高日射反射率塗料を、近赤外領域の光を高い水準で反射することで、塗膜と被塗物の温度上昇を抑える機能性塗料と説明しています。
遮熱と断熱は、よく似た言葉ですが、熱への働き方が異なります。
| 項目 | 主な役割 | 代表的な材料 |
|---|---|---|
| 遮熱 | 太陽光を反射し、表面で熱が発生する量を抑える | 高日射反射率塗料、遮熱シート、遮熱性屋根材 |
| 断熱 | 材料の内部を熱が伝わる速度を遅くする | グラスウール、硬質ウレタンフォーム、セルロースファイバー |
| 放熱 | 吸収した熱を赤外線として外部へ放出する | 高放射率塗膜、放射冷却材料 |
たとえるなら、遮熱は日差しを跳ね返す日傘、断熱は熱を通しにくくする厚手の魔法瓶です。
一般的な屋根用遮熱塗料は、厚さが数十μmから数百μm程度の薄い塗膜です。
そのため、住宅用断熱材と同じ働きを期待するのではなく、太陽光の反射を中心に評価することが大切になります。
遮熱塗料は、断熱材の代わりではありません。しかし、屋根表面で熱の入口を小さくするという意味では、夏の住環境を整える有効な選択肢です。
2. 遮熱塗料の原点|白い屋根と明るい外装の知恵
近代的な遮熱塗料が開発されるはるか以前から、人々は「明るい色の表面は日差しを受けても熱くなりにくい」という性質を経験的に知っていました。
強い日差しを受ける地域では、建物の屋根や壁を白色や淡い色で仕上げる例が多く見られます。
当時は、日射反射率、近赤外線、分光反射率といった言葉は使われていません。
それでも、白色の石灰仕上げや明るい外装が、濃い色の表面よりも日差しを反射しやすいことは、暮らしの知恵として受け継がれてきました。
白色の表面は、可視光線を幅広く反射するため、太陽光の吸収量を小さくしやすい特徴があります。
現在のクールルーフでも、白色や明るい色は高い日射反射率を得やすい基本色です。米国エネルギー省も、クールルーフを従来の屋根より多くの太陽光を反射し、吸収する太陽エネルギーを少なくする屋根と説明しています。
しかし、住宅の屋根をすべて真っ白にすればよいかというと、そう単純ではありません。
- ■ まぶしさや光の反射が気になる場合がある
- ■ 汚れや雨筋が目立ちやすい
- ■ 周辺の街並みや住宅デザインと調和しにくいことがある
- ■ 和風住宅や重厚感のある住宅では違和感が出やすい
そこで必要になったのが、見た目は落ち着いた色のまま、目に見えない近赤外線を反射する技術です。
遮熱塗料の歴史は、白くする技術から、色彩と遮熱性能を両立する技術へ移っていった歴史ともいえます。
3. 遮熱塗料の歴史|光と熱が科学的に研究された時代
遮熱技術が大きく進歩した理由の一つは、太陽光を一つの光として見るのではなく、波長ごとの性質に分けて考えられるようになったことです。
太陽光は、紫外線、可視光線、赤外線などから構成されています。
| 光の領域 | 主な特徴 | 塗膜との関係 |
|---|---|---|
| 紫外線 | 波長が短く、化学反応を起こしやすい | 樹脂や顔料を劣化させ、色あせやチョーキングの原因になる |
| 可視光線 | 人の目で色として感じる光 | 塗膜の色相、明度、彩度に関係する |
| 近赤外線 | 目には見えないが、吸収されると熱へ変わりやすい | 遮熱塗料が重点的に反射させる波長領域 |
日本塗料工業会の解説では、標準的な太陽光エネルギーのうち、紫外線領域が約3%、可視光線領域が約47%、赤外線領域が約50%を占めるという整理が示されています。
遮熱塗料の進化で重要なのは、見た目の色と近赤外線の反射特性を、ある程度分けて設計できるようになったことです。
人の目が色として認識するのは主に可視光線です。
一方、近赤外線は人の目では見えません。
そのため、可視光線領域では一般塗料とほぼ同じグレーに見えても、近赤外線領域では大きく異なる反射性能を持たせることができます。
日本塗料工業会が示す分光反射スペクトルの例でも、一般塗料と高日射反射率塗料は可視光線領域では同じような色に見える一方、近赤外線領域では高日射反射率塗料が大幅に高い反射率を示しています。
これは、ファッションでいえば、見た目は同じ黒いジャケットでも、生地の織り方や裏地によって暑さの感じ方が変わるようなもので、色の見え方を大きく変えず、熱になりやすい光だけを選んで反射する。この波長選択性が、現代の遮熱塗料を支える重要な技術です。
4. 1990年代以降|クールルーフと省エネルギー基準の発展
20世紀後半になると、建物の冷房エネルギー、都市部の気温上昇、ヒートアイランド現象などが広く研究されるようになりました。
そのなかで、屋根の日射反射率を高めるクールルーフという考え方が、建物単体の省エネルギー対策だけでなく、都市環境を整える方法として注目されます。
クールルーフに求められる代表的な性能は、次の二つです。
- ■ 日射反射率:太陽光をどれだけ反射できるか
- ■ 熱放射率:吸収した熱を赤外線としてどれだけ放出できるか
米国環境保護庁とローレンス・バークレー国立研究所は、日射反射率が屋根の温度上昇を左右する重要な指標であり、高い熱放射率も吸収した熱を逃がすうえで役立つと説明しています。
クールルーフは研究室の技術にとどまらず、建築物の省エネルギー基準にも取り入れられていきました。
ローレンス・バークレー国立研究所の研究によると、1999年以降、ASHRAEの省エネルギー基準、国際省エネルギーコード、カリフォルニア州Title 24などで、クールルーフに関する要件や評価が採用されていきました。
| 時代 | 遮熱・クールルーフの主な発展 | 技術的な意味 |
|---|---|---|
| 伝統的な時代 | 白色や明るい外装で日差しを反射 | 色の明るさを利用した経験的な遮熱 |
| 20世紀後半 | 屋根の日射反射率と冷房負荷を研究 | 遮熱効果を数値で評価する流れが進む |
| 1999年以降 | 省エネルギー基準へクールルーフを導入 | 研究技術から建築実務へ普及 |
| 2000年代 | 近赤外線反射顔料による濃色化 | 景観と遮熱性能の両立 |
| 2010年代 | JIS規格、耐候性、低汚染性の整備 | 性能を比較しやすい市場へ |
| 2020年代以降 | 放射冷却、温度応答型、スマート材料 | 季節に合わせて働き方を変える研究へ |
遮熱塗料は、単なる「夏向けの商品」から、建築物の環境性能を構成する一つの技術へと立場を変えていきました。
5. 遮熱塗料の歴史 2000年代|近赤外線反射顔料と遮熱色の進化
初期のクールルーフは、白色や淡色を中心としたものが主流でした。
しかし、一般住宅では黒、ブラウン、濃いグレー、深いグリーンなど、落ち着いた屋根色が好まれます。
そこで2000年代に研究と実用化が進んだのが、クールカラーと呼ばれる近赤外線反射色です。
ローレンス・バークレー国立研究所は2004年、非白色のクールルーフについて、目に見えない近赤外線を反射する顔料や着色材を用いることで、白色以外にも遮熱性を持たせられることを紹介しています。
近赤外線反射顔料には、複数の金属酸化物を組み合わせた複合無機顔料などが使われます。
これらの顔料は、可視光線領域ではグレー、ブラウン、ブルーなどの色を表現しながら、近赤外線領域の吸収を抑えたり、光を散乱させたりします。
ただし、遮熱顔料を使えば、黒色が白色とまったく同じ反射率になるわけではありません。
- ■ 白色や淡色は、もともと広い波長域を反射しやすい
- ■ 濃色は可視光線を多く吸収するため、淡色より不利になりやすい
- ■ 同じ色の一般塗料と比べれば、遮熱顔料を使った色のほうが温度上昇を抑えやすい
つまり、遮熱色を比較するときは、白色と黒色を比べるのではなく、同じ程度の明るさ、同じ色相の一般色と遮熱色を比較することが大切です。
遮熱塗装では、上塗りだけでなく、下塗りを含めた塗装仕様が性能に関係することがあります。
上塗り塗膜を一部通過した近赤外線を、白色系の下塗りで反射し、再び外部へ戻す設計です。
ローレンス・バークレー国立研究所の研究でも、近赤外線を反射する白色系の下層とクールカラー上塗りを組み合わせる方法が検討されています。
だからこそ遮熱塗料は、上塗りの商品名だけで選ぶのではなく、下塗り、色、膜厚、屋根材を含めた塗装システムとして選ぶ必要があります。
6. 日本の遮熱塗料|普及からJIS規格制定までの歩み
日本でも、工場、倉庫、体育館、畜舎、戸建て住宅などを中心に、屋根用遮熱塗料が普及していきました。
とくに折板屋根や鋼板屋根は、夏場に表面温度が上がりやすく、屋根の直下にある室内へ熱が伝わりやすいため、遮熱塗装の効果を確認しやすい用途です。
日本塗料工業会の自主管理制度の説明では、遮熱塗料は発売から20年以上が経過し、出荷量は約1万4,000トン、建築塗料出荷量全体の約3%とされています。
遮熱塗料の普及における大きな節目が、2011年7月20日に制定されたJIS K 5675「屋根用高日射反射率塗料」です。
この規格では、屋根用高日射反射率塗料について、日射反射率だけでなく、塗膜の品質や耐久性などが定められました。
それ以前は、商品カタログに記載された表面温度の比較写真や独自試験の数値が、性能判断の中心になりがちでした。
JIS規格が整備されたことで、一定の条件に基づいて性能を測定し、製品を比較するための共通言語ができたといえます。
2017年11月には、JIS K 5603「塗膜の熱性能―熱流計測法による日射吸収率の求め方」が制定されました。
この規格によって、日射反射機能だけでなく、断熱や放射などを含め、日射によって塗膜に生じた熱のうち、内側へ通過する熱量を日射侵入比として比較しやすくなりました。
| 規格・制度 | 主な評価内容 | 選定時の意味 |
|---|---|---|
| JIS K 5602 | 塗膜の日射反射率を測定 | 太陽光をどれだけ反射するかを確認する |
| JIS K 5675 | 屋根用高日射反射率塗料の品質・反射性能・耐久性 | 屋根用遮熱塗料の基本的な品質を判断する |
| JIS K 5603 | 日射による熱が内側へ通過する割合を評価 | 日射侵入比によって遮熱性能を比較する |
遮熱塗料の歴史は、性能を強く宣伝する時代から、第三者が確認できる方法で比較する時代へ移った歴史でもあります。
7. 2010年代以降|耐候性・低汚染性・評価方法の進化
遮熱塗料は、塗装した直後の日射反射率が高ければ、それだけで優れた製品といえるわけではありません。
屋根は、紫外線、雨、熱、寒暖差、ほこり、排気汚れ、藻、カビなどにさらされます。
表面が汚れたり、塗膜が劣化したりすれば、日射反射率は低下する可能性があります。
塗膜表面に汚れが付着すると、せっかくの明るい表面が薄い灰色のベールで覆われたような状態になります。
そのため、近年の遮熱塗料では次の性能が重視されています。
- ■ 親水性を高め、雨水で汚れを流しやすくする技術
- ■ 塗膜へ汚染物質が入り込みにくい緻密な樹脂設計
- ■ 藻やカビの付着を抑える防藻・防カビ技術
- ■ 紫外線による樹脂の劣化を抑える耐候化技術
- ■ チョーキングを抑え、顔料の保持力を高める技術
米国の研究でも、屋根表面の汚れによる反射率低下が課題となり、撥水性や防汚性を高めた長寿命型クールルーフ塗膜の研究が進められました。
遮熱塗料の耐用年数は、「遮熱」という機能名だけでは決まりません。
実際の耐候性を支えるのは、アクリル、ウレタン、シリコン、フッ素、無機有機複合などの樹脂です。
| 樹脂・塗料タイプ | 一般的な特徴 | 選定時の注意点 |
|---|---|---|
| アクリル系 | 施工性や価格を抑えやすい | 屋根では耐候性を十分に確認する |
| シリコン系 | 耐候性と価格のバランスを取りやすい | 製品によって樹脂設計や性能差がある |
| フッ素系 | 高い耐候性を持たせやすい | 下地や下塗りとの相性、将来の再塗装性を確認する |
| 無機有機複合系 | 高耐候化や低汚染化を図りやすい | 無機という名称だけで判断せず、製品仕様を確認する |
遮熱塗料を選ぶときは、初期の日射反射率だけでなく、数年後も反射性能を維持しやすい塗膜かという視点が欠かせません。
8. 遮熱塗料の仕組み|太陽光が熱へ変わる流れ
遮熱塗料の仕組みを理解するには、屋根が熱くなる流れを順番に見ると分かりやすくなります。
- ■ 太陽光が屋根表面へ届く
- ■ 一部の光は反射される
- ■ 反射されなかった光が塗膜や屋根材へ吸収される
- ■ 吸収された光エネルギーが熱へ変わる
- ■ 熱が屋根材、野地板、屋根裏、室内側へ伝わる
遮熱塗料は、この流れの最初にある光の吸収量を小さくします。
入口で受け取る熱を減らすため、屋根表面の温度上昇が抑えられ、屋根裏へ伝わる熱量も少なくなるという仕組みです。
日射反射率は、単純な明るさだけでなく、次の要素で変わります。
| 要素 | 日射反射率への影響 |
|---|---|
| 顔料の種類 | 近赤外線を吸収する顔料か、反射する顔料かで変わる |
| 塗膜の色 | 一般に明るい色ほど反射率を高めやすい |
| 下塗りの色 | 上塗りを通過した近赤外線の反射を補助する場合がある |
| 膜厚 | 薄すぎると隠ぺい力や反射性能が不足することがある |
| 表面の汚れ | ほこりや藻が付くと反射率が低下する場合がある |
| 塗膜の劣化 | 顔料や樹脂の変化により初期性能を維持できなくなることがある |
遮熱塗料の説明で、とくに注意したいのが表面温度と室温の違いです。
屋根表面で大きな温度差が出ても、その差がそのまま室温差になるわけではありません。
屋根と室内の間には、屋根材、空気層、断熱材、天井材などがあるからです。
日本塗料工業会の資料には、工場屋根の比較例として、真夏の屋根表面温度が遮熱塗料によって最大20℃以上低下した例が示されています。一方で、この数値は試験条件や屋根仕様に基づく事例であり、すべての住宅へ一律に当てはまるものではありません。
大切なのは、派手な温度差だけを見るのではなく、建物の構造と暮らし方を含めて効果を考えることです。
9. 遮熱塗料を構成する顔料・樹脂・添加剤
遮熱塗料は、遮熱顔料だけで完成するものではありません。
料理にたとえるなら、顔料が主な食材、樹脂が全体をまとめる生地、添加剤が食感や保存性を整える調味料です。
| 構成成分 | 主な役割 | 遮熱塗料で求められる性能 |
|---|---|---|
| 顔料 | 色、隠ぺい、光の反射・吸収を調整 | 近赤外線反射、耐候性、色彩性 |
| 樹脂 | 顔料を保持し、塗膜を形成する | 耐候性、付着性、耐水性、柔軟性 |
| 添加剤 | 塗料の流動性や塗膜性能を整える | 分散性、消泡性、低汚染性、防藻・防カビ性 |
| 溶媒・水 | 塗装できる粘度へ調整する | 乾燥性、作業性、環境性能 |
高性能な遮熱顔料を配合していても、塗料の中で顔料が固まっていれば、十分な性能を発揮できません。
顔料を均一に分散し、塗膜の中へ適切に配置する分散剤や製造技術が重要になります。
また、屋根は夏冬の温度差が大きく、金属屋根では熱膨張と収縮を繰り返します。
塗膜には、硬いだけでなく、下地の動きに追従する柔軟性、雨水に耐える耐水性、紫外線に耐える耐候性が必要です。
一部の機能性塗料には、中空セラミックビーズ、ガラスビーズ、微細な多孔質材料などが配合されています。
これらは、光の散乱、熱伝導の抑制、塗膜表面の性質調整などに役立つ可能性があります。
ただし、薄い塗膜を塗っただけで、厚い断熱材と同じ断熱性能が得られると考えるのは適切ではありません。
塗料の機能は、試験方法、膜厚、比較対象、施工仕様を確認して判断することが重要です。
「特殊成分が入っているからすごい」ではなく、その成分が、どの試験で、どの程度の性能を示したのか。そこまで確認して初めて、誠実な塗料選びになります。
10. 屋根材別に見る遮熱塗料の施工ポイント
遮熱塗料の性能を引き出すには、屋根材に合った下地処理と塗装仕様が欠かせません。
金属屋根は熱伝導が大きく、屋根表面の熱が室内側へ伝わりやすいため、遮熱塗装の効果を得やすい屋根材です。
その一方で、さび、旧塗膜の密着不良、ボルト周辺の腐食、山部と谷部の塗り残しなどに注意が必要です。
- ■ さびの進行状態に応じたケレンを行う
- ■ 金属の種類と旧塗膜に合った防錆下塗りを選ぶ
- ■ ボルト、継ぎ目、折板の谷部まで塗膜を確保する
- ■ 塗布量と乾燥時間を守る
スレート屋根では、表面の劣化、吸い込み、ひび割れ、旧塗膜の状態を確認します。
劣化が進んだ屋根に吸い込み止めが不十分なまま上塗りすると、色むら、艶むら、付着不良が発生しやすくなります。
また、塗装後に屋根材の重なり部を塗膜で塞がないよう、適切な縁切りも必要です。
セメント系屋根材は、表面処理や旧塗膜の種類によって下地調整方法が異なります。
とくにモニエル瓦では、劣化した着色スラリー層を十分に除去せず塗装すると、塗膜が下地ごと剥がれるおそれがあります。
アスファルトシングルは、製品によって塗装の可否が異なります。
不適切な溶剤系塗料を使用すると、アスファルト成分が溶け出したり、べたつきや変色が生じたりする可能性があります。
| 屋根材 | 主な注意点 | 必要な施工管理 |
|---|---|---|
| 金属屋根 | さび、熱膨張、旧塗膜の密着 | ケレン、防錆、継ぎ目の塗膜確保 |
| スレート屋根 | 吸い込み、ひび割れ、縁切り | 下塗り量、補修、排水経路の確保 |
| セメント瓦 | 素地劣化、表面処理層 | 高圧洗浄、脆弱層除去、専用下塗り |
| シングル屋根 | 塗装可否、溶剤による影響 | メーカー仕様と専用塗料の確認 |
遮熱性能が高い塗料でも、下地処理が不十分なら長持ちしません。屋根塗装では、機能性より先に下地へ確実に密着することが基本です。
11. 遮熱塗料の効果とデメリットを正しく理解する
遮熱塗料には確かな利点がありますが、すべての住宅で同じ結果が出るわけではありません。
- ■ 夏場の屋根表面温度の上昇を抑えやすい
- ■ 屋根裏や最上階へ入る日射熱を減らせる可能性がある
- ■ 冷房負荷とピーク時の電力使用を抑える効果が期待できる
- ■ 金属屋根の熱による膨張・収縮を軽減できる可能性がある
- ■ 工場、倉庫、畜舎などの作業環境改善に役立つ
- ■ 都市部のヒートアイランド対策へ貢献できる
米国の公的機関も、クールルーフによる効果は、気候、断熱性能、屋根仕様などによって変わり、暑い地域や冷房需要の大きい建物ほど効果が得やすいと説明しています。
| 注意点 | 内容 |
|---|---|
| 効果に差がある | 断熱性の高い住宅では、室温差が小さくなる場合がある |
| 冬季の日射も反射する | 寒冷地や暖房主体の建物では、冬の暖房負荷が増える可能性がある |
| 淡色ほど汚れが目立つ | 高反射色は汚れや雨筋が見えやすい |
| 濃色は性能が下がりやすい | 遮熱顔料を使っても白色や淡色より不利になりやすい |
| 施工費が上がる場合がある | 一般塗料より材料費が高くなることがある |
| 汚れで性能が低下する | 低汚染性や維持管理を考える必要がある |
反射性の高い屋根は夏の冷房負荷を抑える一方、冬に取り込める日射熱も減らすため、暖房エネルギーがわずかに増える場合があります。
日本塗料工業会の資料では、つくば市の実験棟で、一般塗料と比べて夏場のエアコン消費電力が7%削減された事例が紹介されています。
ただし、これは特定の建物、塗装仕様、気象条件、空調条件で行われた試験結果です。
お客様の住宅で必ず7%下がるという意味ではありません。
(重要)「最大〇℃低下」「電気代〇%削減」という数字を見るときは、試験場所、比較色、屋根材、測定時刻、断熱条件を確認してください。
誠実な塗装店は、効果を大きく見せるのではなく、効果が出やすい建物と出にくい建物を分けて説明します。
12. 遮熱塗料の選び方|失敗を防ぐ確認項目
遮熱塗料を選ぶときは、「遮熱」という文字の大きさではなく、塗料の中身と施工仕様を確認します。
| 確認項目 | 確認する内容 |
|---|---|
| 日射反射率 | 初期値だけでなく、色ごとの数値や試験方法を確認する |
| 日射侵入比 | 屋内側へ通過する熱量の比較に使えるか確認する |
| 塗料の色 | 遮熱性能、まぶしさ、汚れ、周辺景観のバランスを取る |
| 樹脂の種類 | 予算と次回塗り替え時期に合う耐候性を選ぶ |
| 低汚染性 | 反射性能を長く維持しやすい塗膜か確認する |
| 下塗り | 屋根材、旧塗膜、劣化状態に適合しているか確認する |
| 塗布量 | メーカーが定める使用量と塗り回数を確認する |
| 施工管理 | 乾燥時間、気温、湿度、塗り重ね間隔を守れる業者か確認する |
- ■ 最上階や屋根裏の暑さに悩んでいる住宅
- ■ 金属屋根や折板屋根の工場・倉庫
- ■ 屋根面積が大きく、日中の日射を長時間受ける建物
- ■ 屋根裏の断熱や換気が十分ではない建物
- ■ 夏の冷房使用時間が長い建物
- ■ 屋根面が北向き中心で、直射日光を受けにくい
- ■ 屋根と室内の間に厚い断熱材が施工されている
- ■ 太陽光パネルが屋根の大部分を覆っている
- ■ 樹木や隣接建物によって屋根が日陰になる
- ■ 冷房をほとんど使用しない
遮熱性能だけを優先して屋根を真っ白にすると、住宅全体のデザインから屋根だけが浮いて見えることがあります。
住宅では、アイボリー、ライトグレー、ミディアムグレー、グレージュ、淡いブラウンなど、外壁と調和する色を選ぶ方法があります。
濃い屋根色を希望される場合は、一般色より近赤外線反射性能を高めた遮熱色を選び、淡色との差も正直に説明することが大切です。
住まいの色は、性能表だけで決めるものではありません。街並み、外壁、サッシ、雨樋、玄関、植栽まで見渡して、長く心地よく感じられる色へ整えることが、小林塗装の考える色選びです。
13. 遮熱塗料の未来|放射冷却とスマート塗膜
遮熱塗料の進化は、太陽光を反射するだけでは終わりません。
現在の研究では、吸収した熱を宇宙空間へ放射する放射冷却や、気温に応じて性能を変える温度応答型材料が注目されています。
放射冷却は、物体が持つ熱を赤外線として空へ放出し、表面温度を下げる仕組みです。
太陽光を高い割合で反射しながら、大気が赤外線を通しやすい波長帯へ熱を放出できれば、電力を使わずに表面を冷却できる可能性があります。
2023年には、厳しい環境下でも高い太陽光反射性能を維持する放射冷却ガラスコーティングの研究が発表され、2024年には垂直面を対象とした昼間放射冷却の研究も報告されています。
ただし、こうした研究材料が、そのまま一般住宅の屋根塗装へ使えるわけではありません。
塗装現場で普及するには、価格、付着性、耐候性、施工性、補修性、安全性、量産性など、多くの条件を満たす必要があります。
従来の遮熱塗料は、夏も冬も同じように太陽光や熱を反射・放射します。
夏にはありがたい性質ですが、冬には日射熱を取り込みにくくなる可能性があります。
そこで研究されているのが、温度に応じて熱放射性能を自動的に変える材料です。
2021年に発表された温度適応型放射コーティングは、暖かいときには熱放射を高め、寒いときには放射を抑えることで、季節をまたいだ省エネルギーを目指しています。
| 次世代技術 | 期待される働き | 実用化に向けた課題 |
|---|---|---|
| 放射冷却 | 吸収した熱を赤外線として空へ逃がす | 耐候性、価格、曇天・湿度条件への対応 |
| 温度応答型塗膜 | 夏と冬で放射性能を切り替える | 長期安定性、量産性、施工性 |
| 自己洗浄塗膜 | 汚れを落とし、反射性能を維持する | 耐久性と低汚染性の両立 |
| 高耐候クールカラー | 濃色でも近赤外線反射率を高める | 色彩、価格、顔料安定性 |
| 環境配慮型樹脂 | 低VOC化や再生原料活用を進める | 耐候性と環境性の両立 |
将来の遮熱塗料は、ただ日差しを跳ね返すだけでなく、天候や季節、表面の状態へ合わせて働き方を変える可能性があります。
ただし、小林塗装として大切にしたいのは、未来の華やかな技術だけではありません。今ある塗料を、適切な下地処理、塗布量、乾燥時間、色選びによって正しく使うこと。そこに塗装工事の品質があります。
14. 遮熱塗料の歴史と発展・進化まとめ

遮熱塗料の歴史は、白色や明るい外装で日差しを反射する暮らしの知恵から始まりました。
その後、光の波長と熱の関係が研究され、太陽光に含まれる近赤外線を効率よく反射する高日射反射率塗料へ発展します。
2000年代には、近赤外線反射顔料によって、グレー、ブラウン、ブルーなどの色でも遮熱性能を持たせやすくなりました。
日本では2011年にJIS K 5675が制定され、2017年にはJIS K 5603が整備されます。
現在は、初期の日射反射率だけでなく、耐候性、低汚染性、色彩性、日射侵入比、長期的な性能維持まで含めて評価する時代です。
- ■ 遮熱塗料は、主に太陽光を反射して熱の発生を抑える塗料です
- ■ 断熱材とは役割が異なり、断熱材の代わりにはなりません
- ■ 白色や淡色ほど高い遮熱性能を得やすい傾向があります
- ■ 近赤外線反射顔料によって、濃色にも遮熱性を持たせられます
- ■ 効果は屋根材、断熱、換気、色、建物の使い方によって変わります
- ■ 汚れや塗膜劣化による性能低下も考える必要があります
- ■ 塗料だけでなく、下地処理と施工管理が耐久性を左右します
遮熱塗料は、家を急に冷蔵庫のように冷やす塗料ではありません。
強い日差しを屋根の表面で静かに受け流し、室内へ入る熱を少しずつ減らしていく塗料です。
その働きは、真夏の道を歩くときに差す日傘のようなもの。派手ではありませんが、あるのとないのとでは、じわじわと違いが現れます。
だからこそ、商品名や宣伝文句だけで選ばず、住まいの構造、屋根材、色、予算、今後の維持計画に合わせて選ぶことが大切です。
小林塗装では、遮熱塗料をおすすめする場合も、一般塗料で十分な場合も、それぞれの理由を分かりやすくお伝えします。
高い塗料を選ぶことより、住まいに合う塗料を正しく施工すること。それが、長持ちする屋根塗装の基本です。
屋根の無料診断・遮熱塗料の相談は
小林塗装へお気軽にご相談ください
15. 遮熱塗料に関するよくある質問

必ず同じ温度だけ下がるわけではありません。
屋根材、屋根の色、断熱材の厚さ、屋根裏換気、天井の高さ、窓から入る日射、エアコンの使い方などによって結果は変わります。
金属屋根や屋根裏の断熱が少ない建物では、効果を感じやすい傾向があります。
同じではありません。
遮熱塗料は、主に太陽光を反射して熱の発生量を抑えます。断熱材は、材料の中を熱が移動する速度を遅くします。
薄い遮熱塗膜だけで、厚い住宅用断熱材と同じ性能が得られるわけではありません。
白色以外にも遮熱色があります。
近赤外線反射顔料を使えば、グレー、ブラウン、ブルー、グリーンなどにも遮熱性能を持たせられます。
ただし、一般的には白色や淡色のほうが高い日射反射率を得やすくなります。
冬の日射熱も反射するため、条件によっては暖房負荷がわずかに増える可能性があります。
ただし、冬は夏より日射角度が低く、屋根への日射条件も異なります。断熱性能や地域の気候によって影響が変わるため、住宅ごとに考える必要があります。
耐用年数は、遮熱機能ではなく、主にベースとなる樹脂、屋根材、立地、施工品質によって決まります。
シリコン、フッ素、無機有機複合などで耐候性は異なりますが、同じ樹脂名でも製品差があるため、商品ごとの仕様を確認してください。
外壁にも日射反射による効果はあります。
ただし、住宅では屋根のほうが日射を長時間、強い角度で受けるため、一般的には屋根のほうが遮熱効果を得やすくなります。
外壁では、西日を受ける西面や南面など、方角と日射条件を考えて選びます。
ほこり、排気汚れ、藻、カビなどが表面を覆うと、日射反射率が低下する場合があります。
そのため、初期の日射反射率だけでなく、低汚染性、防藻・防カビ性、耐候性も重要です。
金属屋根は、遮熱塗料がよく使われる屋根材です。
ただし、さびや旧塗膜を十分に調査し、適切なケレン、防錆下塗り、塗布量、乾燥時間を守らなければ長持ちしません。
JIS適合は、性能を比較するうえで信頼性のある判断材料です。
ただし、JIS適合品を使っても、下地処理、下塗り、塗布量、乾燥時間が不適切なら、十分な耐久性は得られません。
塗料の品質と施工品質は、車の両輪です。
商品名や価格だけで決めず、屋根材との相性、日射反射率、色、樹脂、低汚染性、下塗り、塗布量まで確認することです。
そして、メリットだけでなく、効果が出にくい条件や注意点まで説明してくれる塗装店を選ぶことが大切です。
16. 参考資料
本コラムは、日本塗料工業会、米国エネルギー省、米国環境保護庁、ローレンス・バークレー国立研究所、オークリッジ国立研究所および学術論文の公開情報を参考に、小林塗装の施工経験を加えて構成しています。
- ■ 日本塗料工業会「高日射反射率塗料について」「遮熱塗料」
- ■ 米国エネルギー省「Cool Roofs」
- ■ 米国環境保護庁「Using Cool Roofs to Reduce Heat Islands」
- ■ ローレンス・バークレー国立研究所「Cool Roofs」「Cool Colors」関連研究
- ■ 温度適応型放射コーティング・放射冷却材料に関する研究
遮熱塗料の性能値や適用条件は、製品改良や規格改定によって変わることがあります。実際に塗料を選定する際は、最新のカタログ、仕様書、試験成績書、施工要領をご確認ください。
17. この記事を書いた人
小林塗装 店主 小林ゆず
塗装職人歴30年以上、施工実績2,000件以上。
名古屋市を中心に、外壁塗装、屋根塗装、防水工事、シーリング工事などを手掛けています。
塗料の性能だけでなく、下地の状態、建物のつくり、周辺環境、お客様の暮らし方まで確認し、それぞれの住まいに合った施工方法をご提案しています。
色選びでは、外壁と屋根だけを見るのではなく、サッシ、雨樋、玄関、植栽、街並みとの調和まで考え、長く愛着を持てる住まいへ整えることを大切にしています。
遮熱塗料や屋根の暑さでお悩みの方は、どうぞお気軽に小林塗装へご相談ください。
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